タレントの向井亜紀さんとプロレスラーの高田延彦さん夫婦が、米国人の代理母に出産を依頼して生まれた双子の子どもの出生届を受理するよう求めた裁判で、最高裁は「母子関係は認められない」との初判断を示し、出生届の受理を命じた東京高裁決定を破棄しました。

 司法判断について、立法府に身を置く私が言えることはありませんが、この最高裁判決では「立法による速やかな対応が強く望まれる」と言及をしたことを重く受け止めています。

 日本には人工授精、体外受精、代理懐胎など生殖補助医療に関する法律がありません。存在しているのは、代理懐胎を禁止する厚労省の審議部会の報告と産婦人科学会の内規、それに民法における母子関係を「出産の事実によって発生する」とする昭和37年の判決です。

 判決では「出産の事実によって母子関係が発生」。つまり、産んだ人が母親となるのですが、代理母の場合、遺伝子的には親子関係は存在しません。受精卵が依頼者である夫婦のものである場合、遺伝子上の母親は依頼者となりますが、それは認められていないのです。子宮を摘出さざるを得なくて子どもが産めない人は卵子があっても自分の子どもを持つことが不可能になるのです。ところが、日本ではAIDといって、夫の精子の問題から夫以外の精子を妻の卵子と受精させて産まれた子どもには父子関係を認めています。最初にAIDで産まれたケースは昭和24年です。

 さらに報告書や内規は罰則規定がないことから、実際に長野の病院で祖母が娘の子ども(孫)を代わりに産むなど代理懐胎が行われていることがニュースとして報道されるなど、日本でも代理出産が行われていることが明らかになっています。また、代理出産が認められている外国で代理母に子どもを産んでもらい、帰国後にその事実を隠し「自分の子ども」として出生届を受理してもらうことも可能です。向井さん夫婦の場合は、テレビでドキュメンタリー番組を放送するなど、母親が産んでいないことが明らかなために受理は認められませんでした。

 こうした不平等な実態が広がる現実に対し、政治が立法作業を手がけてこなかった不作為はあまりにも大きいと考えます。最高裁判決で立法府に求められた課題に速やかに対応すべきで、産まれてくる子どもの幸せ、利益。産みたいとする方々の願いにどうやって答えていけるのか。受精卵はクローン技術や万能細胞にもなります。日々進歩を遂げる生殖補助医療が神の領域にどこまで踏み込めるのか。多くの課題はありますが、まずは生命倫理に関する基本法を制定することから始めるべきだと思い、仲間と動き出したところです。
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