「お兄ちゃん。今日、どうするの?」


秋の涼しさがだんだんと肌寒いと感じる時期。
毎年この日、実琴と2人で出かける場所がある。


「勿論行きますよ。今日は任務も入れてないですからね」


そう応えると、実琴は外行きの準備を始める。薄手のコートを羽織り、途中でお花買わないとね〜、と言った。


「そうですね」



今日は、両親の命日だ。







◇◆◇◆◇





市街地にある霊園。
そこに両親の墓はあった。

緋月の両親が建ててくれたものだ。


部屋から持って出たバケツと掃除用具を持ち、花を買って、まっすぐ霊園へと歩いていく。



「今年はなんて報告しようかな〜」


「毎年の楽しみですね」


「うんうん! マリアさんに稽古つけてもらった事とか〜、ひづんとパフェ食べた事とか〜、乃騎さんとパンケーキ食べたとか〜」


「え、ちょっと。いつの間に乃騎さんとそんな事を」


「パティちゃんも一緒だよ〜。あとザッくんも〜」


「ならばまあ、良しとします」


年頃とはいえ、実琴に恋人が……とは考えたくない。
まあ乃騎さんがそうなる可能性はゼロに近いだろうけど。

早い……いや遅いのか? でもまだ、もう少し、いやもっと慎重に。実琴を本気で大切に想ってくれる人で且つ実琴を幸せにする者でなければ駄目だ。そして自分が認めなければ絶対に――


「あとは〜お兄ちゃんに〜…………」


「……? 自分に、なんですか?」


言葉を詰まらせる実琴。


その表情は寂しげで、


「……お兄ちゃんに、また、守ってもらっちゃったって、言わなきゃな〜って」


そう続いた台詞は、もっと辛そうだった。


その表情になんて返せば良いか分からず、


「……そんなの、気にしなくていいんですよ」


と言ってはみるが実琴の表情は寂しげなままだった。


「もう、守らなくていいよ〜……」


「そのような訳には行きません」


「だって、お兄ちゃんが怪我するじゃん……」


「自分は平気ですから」


「私が平気じゃないんだってば!!」


突然張り上げた大声に、驚きを隠せない。
それは本人も同じだったらしく、ごめん、と一言言うとそのまま霊園に向かって走っていってしまった。


「実琴!」


伸ばした手の先にある背中は、みるみる小さくなり、やがて見えなくなった。







◇◆◇◆◇






――蓮牙くん。今日から、実琴ちゃんと家に来なさい。
君たちはこれからうちの子になるんだよ。


なるべく自分達を安心させたかったのだろう。
15年ほど前、緋月の父親は家にいた自分と実琴を迎えに来た。


――お父さんと、お母さんは?

――今は、遠いところにいるんだ。


実琴の前だったから、そういう答えを返したのだと思う。それから数日して、自分にだけ本当の事を教えてくれた。


2人は事故で、もう会えないのだと。
だから君が実琴ちゃんを守ってあげるんだ、と。


「……自分は、間違っているんでしょうか」


妹が走っていった道を歩いて進む。


護るとなれば、自らが傷を負うのは仕方ない事だ。

だが、いつも実琴は悲しそうで……いや実琴だけじゃない。緋月も乃騎さんだって、怒ったり悲しんだりしていた気がする。




――馬鹿野郎! ふざけんな!!


珍しく乃騎さんが声を荒らげた瞬間があった事を思い出した。

それは実琴達がアークスになって数日後、大型ダーカーの攻撃から乃騎さんを庇って深手を負った時だった。


――誰がお前に守ってくれなんて頼んだよ!


――すいません。でも、どうしても誰かが傷つくのを見たくないんです。


――それでお前がこんなになってんなら、なんの価値もねぇだろうが。


――ご迷惑をかけてすいません……もっと強くなれば実琴達や乃騎さんにも心配されずに済むんでしょうけど。


乃騎さんからの治癒術を受けながらそう答えると、乃騎さんは呆れたように溜息を吐いた。


――どれだけ強くなろうが関係ねぇって言ったろ……いいか、身を呈して守るなんてのは、俺から言わせればただのカッコつけの死にたがりだ。


――そんな言い方しなくても……。


――だがお前はいくら何を言ったって守るんだろ?


――はい。自分が戦う理由ですから。


――だったら強くなるのは当然として、もうひとつ、守り切らなきゃいけねぇもんがあるだろ。


――なんですか、それ。


――馬鹿野郎。お前が死んだら、誰がアイツらを守るんだって言ってんだ。



「……あ…」


あの時言われたあの言葉。

そうしたら乃騎さんが守ってください、って返したら殴られたんだっけ。


実琴は何故泣いたのか。
乃騎さんは何故怒ったのか。

それは自分が皆を大切に思うように、皆が自分を思ってくれるから、と分かっていても、守る為に身体が動いてしまうのは最早どうしようも出来ない事だ。
 

ならば、どうすればいいか。

乃騎さんが言いたかったのはきっとこれで、そして、実琴に今言わなければいけない事も、きっとこれしか無いのだろう。






◇◆◇◆◇








霊園に着き、両親の墓前へ向かう。
実琴は花瓶に花を生けていた。


「お兄ちゃん……ごめんなさい、先に行って」


「いえ……自分の方こそすいません、心配させて」


「当たり前でしょ〜……家族で、仲間なんだから〜」


「……そうですね……」


「……ちゃんと分かってる〜?」


「ええ。ただ、自分はこの戦い方を変えられませんし、生き方を変えるのも……申し訳ありませんが、難しいと思います。だから、これからもきっと心配をさせ続けてしまうでしょう」


そう言うと実琴は少し肩を落とす。
その頭を撫でながら、


「ですが、自分の命も同様に守り抜き、必ず貴女達と生き続けてみせます。不安にも寂しい思いも決してさせないと、約束します」


これがきっと最適解。

自分自身を護ることで、その先もずっと仲間を護り続けられる。

そして何よりその方が、皆が笑ってくれるだろうから。


「……うん……じゃあ、約束ね〜?」


「はい」


そう言って子供のように小指で指切りをする。
それが終わると実琴はお墓に向き直り、


「お父さん、お母さん。今の見てたよね〜? お兄ちゃんが約束破らないように、ちゃんと見守っててね!」


と言って笑った。


「はい。よろしくお願いします」


「えへへ……じゃ、帰ろ〜」


「ええ。どこか寄りたい場所はありますか?」


「う〜ん。あ、あのね、こないだ読んだ雑誌でスイーツ特集しててね――」












完.










(主・3・)「よし!ギリギリ11月!! というわけでどうもどうも、主ですよ!」


(蓮´^ω^)「こんばんは、蓮牙です」


(主・3・)「今回は蓮牙誕生日企画でしたー。10日だよね、10日


(蓮´^ω^)「そのように記憶しています……」


(主・3・)「おめでとう! そしてごめん……なんとか11月で書ききったから許してほしい……」


(蓮´^ω^)「別に忘れていてもなんら問題はありませんが……」


(主・3・)「それは問題だ! 自分の中ではですけども」



という事で、5周年企画・蓮牙誕生日篇でした。


両親の命日に合わせて、せっかく2人で出かけるんだからたまには本音でぶつかりあわせてみようじゃないか……というテーマではなかったんですけど(((


なんというか、蓮牙が自らを犠牲にしても守りたいものを守る、という戦闘スタイルはやはり仲間にとっては嬉しく無いものだよな、と思いましてこんな感じにしてみました。


蓮牙にとって1番守りたいものは仲間でしょうけど、その中でも唯一血の繋がりがあるみこっちゃんに、自らの戦闘スタイルを考えるきっかけを作らせたい、と2人で出かけてもらいました。


乃騎さんが実はちょっときっかけ作ってたっぽい回想も入れましたけど、その時はそんなに考えられる程余裕も無かったでしょうし、実際、実力不足を感じていれば「弱いせいだ」と思い至って考えるのを終わらせるってのも仕方ないのかもしれないです。


まぁ結局戦闘スタイルは変わりませんので腑に落ちない感じもしますけど、以前の自己犠牲から、自らを守り且つ守りたいものを守るというスタンスにする、という約束したのでね。
これでみこっちゃんとかが、ちょっとでも安心してくれたらなぁ、と思います。

蓮牙に限って、みこっちゃんとの約束破るとも思えないですからね(((



(主・3・)「と、グダグダ書いたところで今回はここまでー」


(蓮´^ω^)「次回のご予定は?」


(主・3・)「ザックスの誕生日が近いね……(´・ω・`)」


(蓮´^ω^)「遅刻……ですかね……」


(主・3・)「まぁそうでしょうね(諦め)」


(蓮´^ω^)「忘れてあげないでくださいね……」


(主・3・)「頑張ります……」


(蓮´^ω^)「それでは、また次回ですね」


(主・3・)「はい! 結構長くなってしまいまして申し訳ありません! ここまでご覧いただきありがとうございました! ではではー!!」