「アルマンス」はスタンダールの処女作と言われています。日本では、あまり評価されていなようで、すでに絶版になっています。
この小説では、「赤と黒」でも現われていた、「義務」というっ言葉が頻繁に出てきます。冒頭部分で、主人公のオクターブについて、スタンダールはこのように述べています。
「義務の名においてそうしなければならないと思われることには、一もニもなくしたがうという風が見られた。が、義務が声高に命じないかぎり、彼には行動する動機が見つからないかのようだった」。
また、オクターブの伯父がこのように言います。
「お前というやつはわからん。まるで義務の権化だ」。
すると、オクターブはこう答えます。
「絶対に義務に欠けることがなくて済んだらどんなにうれしいでしょうね。生まれたときにいただいたままの浄い心を神様にお返しできたらと思いますよ!」
確かに、このような主人公が、現代の日本で人気者になることはないかと思われます。
オクターブにはアルマンスという従妹がいます。彼女はオクターブの幼馴染でもあります。頻繁に会う機会のある二人は、深く愛し合っています。アルマンスはそのことを自覚していますが、オクターブにはその自覚がありません。小説の中では明示されたいませんが、彼は、性的不能者であるため、けっして恋をするまい、という誓いを自らに立てているのです。そのことが、アルマンスに対する恋心の自覚を妨げているのかもしれません。
オクターブは、法律の改正で、金持ちになり、周囲からちやほやされるようになります。けれども、アルマンスは、かえってオクターブに対して冷淡になっていきます。彼は、自分がアルマンスに軽蔑されていると思いこみ、直接、アルマンスと対峙します。そのとき、アルマンスは泣いてしまい、自分の恋心がオクターブにわかってしまったと思い、絶望します。いろいろ考えた挙句、彼女はこのように自分に言い聞かせます。
「わたしは修道女になるべきだ。いちばん孤独になれる修道院をえらんで、眺めの美しい、高い山々にかこまれた修道院に入ろう。そういうところでは、あのひとの噂をきくこともないだろう。いま思いついたことは義務だわ」。
そして、彼女はこのように続けます。
「いったん、義務があると認めた以上、時を移さず、一も二もなくなく、盲目的にその義務に従わないのは、俗人のしかただ。それでは自分はオクターブにふさわしくない人間になってしまう。そうあのひとは何度も言っていた。それこそが気高い心の持ち主を見分ける、ひそかなしるしだって。ああ、オクターブ!立派なお友達、いとしいひと!わたしはあなたのお言葉に従います」。
この義務の観念は、デカルトの「高邁」の徳と酷似しています。スタンダールは文学によって、デカルトの徳に関する概念を表したと言えるのではないでしょうか。