
劇中雲の動きが早送りで示され頻繁に時計盤が映るのも特長的だ。それはあたかも時間は有限にしてその過ごし方こそが大切だと説く古代ローマの哲学者セネカの思想にも似たコッポラ流指南のように受け取れなくもない
東京で行われた透け透けトランクスを履いての猫じゃれボクシング戦で失墜するまでのミッキー・ロークはよくデ・ニーロに例えられたが私個人は彼が強く意識したのはマーロン・ブランドだと思っている。MCBの囁き語り掛ける台詞回しや自らの顔に手をやる仕草などはマーロン風にして前述したカーツ大佐の若き頃をイメージさす
MCBより託された「俺のバイクで川に沿って海へ行け」のメッセージ通り故郷を出てミシシッピ川の河口に立つ弟ラスティ・ジェームズの姿をシルエットで捉えたラストショットは額に入れて飾っておきたいくらいに完璧でその美しさはキャロル・リード「第三の男」幕引きに匹敵。英国ロックバンド「ポリス」のスチュワート・コープランドが手掛けたスコアも秀逸である
白黒ならではの影の使い方、或いは夢や幽体離脱の描写など随所に実験的手法が垣間見られ80年代に入って撮られたアメリカンニューシネマの様相を呈す。監督の念頭にはもしかしたらピーター・ボグダノビッチ「ラスト・ショー」があったのではなかろうか。巨額な製作費を投じた大作の成功に甘んじず小粒ながらもピリリとスパイスの効いた青春映画を撮ったところにコッポラの矜持が窺えるマスターピース。彼が第一にランブルフィッシュを掲げたのも納得だ
★★★★★★★★☆☆
原題 Rumble Fish
監督 フランシス・コッポラ
脚本 フランシス・コッポラ, S.E.ヒントン
撮影 スティーブン・H・ブラム
編集 バリー・マルキン
音楽 スチュワート・コープランド
出演 マット・ディロン, ミッキー・ローク
公開 1983.10.21(米)/ 1984.07.21(日本)
𝐑𝐞𝐧𝐝𝐞𝐳-𝐯𝐨𝐮𝐬 𝐍𝐨𝐭𝐞
ラスティ・ジェームズの恋人(ダイアン・レイン)妹役にソフィア・コッポラがキャスティング。クレジットでは演者名「ドミノ」となっている