【2025 - No.30】
𝒀𝒐𝒖'𝒓𝒆 𝒚𝒐𝒖𝒏𝒈, 𝒚𝒐𝒖'𝒓𝒆 𝒉𝒖𝒓𝒕
~ 若さゆえ君は傷つき Vol.1 ~
ランブルフィッシュ
アメリカ 94分 1983年
(This photo & Cover photo: via IMDb)
 
フランシス・コッポラへの最新インタビューのなかで自身の思い入れある作品に挙げていたのがランブルフィッシュだった。なぜ彼がゴッドファーザーでも地獄の黙示録でもなくこの100分に満たない謂わば小品のフィルムを選んだのか確認すべくこれを再鑑賞した
 
改めて本作を観てみると物語の根源的な部分が地獄の黙示録と共通しているのに気づく。かつて不良グループを率い卓越したカリスマ性でモーターサイクルボーイ(以下MCB)と呼ばれ崇められた青年が笛の吹かれるままに何の疑いも持たず自分に従う人々の愚かさに幻滅し人生に意義が見出せぬ状態へと陥った挙句狂気の淵を彷徨う様子は地獄の黙示録におけるカーツ大佐を想起させる。登場人物のひとりはMCBを亡命した国王の如くと評すがまさに的を射た言葉であろう
 
MCBは色覚異常と云う設定でモノクロームの画面はその映像表現に当たるがこれは彼の世界では人肌による違いは無く全てがフラットに見えていることを示唆しパートカラーを用いそこだけ色付けされたペットショップの闘魚は同類間で争いを繰り返す人間の暗喩と考えられる。舞台となるオクラホマ州タルサは今から百年ほど前に大規模な黒人虐殺が起きた場所でもありそうした歴史背景を踏まえてランブルフィッシュに目を通すとストーリーの奥深さが分かる
(Photo: via IMDb)

劇中雲の動きが早送りで示され頻繁に時計盤が映るのも特長的だ。それはあたかも時間は有限にしてその過ごし方こそが大切だと説く古代ローマの哲学者セネカの思想にも似たコッポラ流指南のように受け取れなくもない

 

東京で行われた透け透けトランクスを履いての猫じゃれボクシング戦で失墜するまでのミッキー・ロークはよくデ・ニーロに例えられたが私個人は彼が強く意識したのはマーロン・ブランドだと思っている。MCBの囁き語り掛ける台詞回しや自らの顔に手をやる仕草などはマーロン風にして前述したカーツ大佐の若き頃をイメージさす

 

MCBより託された「俺のバイクで川に沿って海へ行け」のメッセージ通り故郷を出てミシシッピ川の河口に立つ弟ラスティ・ジェームズの姿をシルエットで捉えたラストショットは額に入れて飾っておきたいくらいに完璧でその美しさはキャロル・リード「第三の男」幕引きに匹敵。英国ロックバンド「ポリス」のスチュワート・コープランドが手掛けたスコアも秀逸である

 

白黒ならではの影の使い方、或いは夢や幽体離脱の描写など随所に実験的手法が垣間見られ80年代に入って撮られたアメリカンニューシネマの様相を呈す。監督の念頭にはもしかしたらピーター・ボグダノビッチ「ラスト・ショー」があったのではなかろうか。巨額な製作費を投じた大作の成功に甘んじず小粒ながらもピリリとスパイスの効いた青春映画を撮ったところにコッポラの矜持が窺えるマスターピース。彼が第一にランブルフィッシュを掲げたのも納得だ

 

★★★★★★★★☆☆

 

原題 Rumble Fish

監督 フランシス・コッポラ

脚本 フランシス・コッポラ, S.E.ヒントン

撮影 スティーブン・H・ブラム

編集 バリー・マルキン

音楽 スチュワート・コープランド

出演 マット・ディロン, ミッキー・ローク

公開 1983.10.21(米)/ 1984.07.21(日本)

 

𝐑𝐞𝐧𝐝𝐞𝐳-𝐯𝐨𝐮𝐬 𝐍𝐨𝐭𝐞

ラスティ・ジェームズの恋人(ダイアン・レイン)妹役にソフィア・コッポラがキャスティング。クレジットでは演者名「ドミノ」となっている

(Photo: via IMDb)
Upcoming Film Review ➣➣➣
~ 若さゆえ君は傷つき Vol.2 ~
「天国の日々」(1978)