近年製作された映画のなかでも特に高い評価を受けている「燃ゆる女の肖像」はずっと気になっていた作品だ。物語の背景となる時代は若干異なるが、シチュエーションとしてはケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンが共演した「アンモナイトの目覚め」に似ていると思われなくもない。あれこれ御託を並べる前にとにかく観てみよう

 

" Portrait de la jeune fille en feu " (仏 122分)

監督: セリーヌ・シアマ

脚本: セリーヌ・シアマ

撮影: クレール・マトン

音楽: ジャン=バティスト・デ・ラウビエ

出演: ノエミ・メルラン

    アデル・エネル

    ルアナ・バイラミ

 

画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく二人だったが、、、(by 映画.com)

 
冒頭、小さな舟に乗ってブルターニュ地方の島へと向かう主人公のマリアンヌが、映像で見ているだけでも酔いそうなほど荒い波に放り出された画材を取り戻すため間髪入れずに海へ飛び込む。18世紀に女性が画家として生きるのは並大抵のことではないと思うが、このワンシーンからはそんな彼女の芯の強さが伝わってくる
 
肖像画のモデルとなるエロイーズは上記あらすじに記されている通り徐々にマリアンヌに惹かれていったかもしれないが、マリアンヌの方は、初めてエロイーズと会った時の眼差しなどを考えても、一目惚れだったという気がする。「結婚はしない」と公言する彼女はレズビアンであることを早々に自覚していたのではないだろうか
 
二人の過ごした僅かな日々の、彼女たちにとってはそれが永遠の、ラヴストーリーをギリシャ神話の「オルフェウス」のエピソードを絡めながら描いたオリジナル脚本が素晴らしい。エロイーズがマリアンヌから音楽の楽しさを教わった思い出の曲でもあるヴィヴァルディ「夏の嵐」を、嫁ぎ先のミラノのコンサート会場で聴いて涙するエンディングも絶妙だ
 
撮影スタイル自体はオーソドックスだが、各ショットのアングルや色調がまるで絵画のような構成で、監督のこだわりが窺える。また、マリアンヌの着る「赤」、エロイーズの着る「青」と「緑」、そして召使ソフィーの着る「白(生成り)」。これら衣装の色はフランスとイタリアの国旗をイメージした風にも感じられる
 
ミラノ出身のエロイーズの母親がイタリア語で悪態をつき、言語を解すマリアンヌが会話で応じるシーンが出てくる。この母親に扮するのが「レインマン」でトム・クルーズの恋人役を演じていたヴァレリア・ゴリノだ。私と同年代の彼女、若い頃の雰囲気とあまり変わっていなかったのが何だか嬉しい
 
よく「男の世界」だとか「男の映画」といった表現が用いられたりもするが、舟の漕ぎ手と肖像画の運搬人でしか男の登場しない本作は、その意味では「女の世界」を扱った新世代の「女の映画」と呼べるのかもしれない
 
【2019年カンヌ国際映画祭脚本賞,クィアパルム賞】
 
〈演出〉★★☆
〈脚本〉★★★
〈撮影〉★★☆
〈音楽〉★★★
〈配役〉★★☆
〈総合〉A −
【 ※ 評価は A +、A −、B +、B −、C +、C − の 6段階 】
 
 (2023 - No.13) Amazon Prime Video にて鑑賞