12月に観た映画は15本。すでにレビュー済みのものを除いた7本は以下の通り

 

戦慄の絆」(1988)

監督: デヴィッド・クローネンバーグ

脚本: デヴィッド・クローネンバーグ 他

撮影: ピーター・サシツキー

主演: ジェレミー・アイアンズ

 

外交的で野心家の兄と内向的で繊細な弟。兄弟姉妹で全く正反対の性格を持つのは割とよくある設定だが、本作ではそれが瓜二つの「一卵性双生児」という点が興味深い
 
共同で婦人科を営む二人のもとへ不妊治療の患者として訪れた女優が絡む中盤までの展開は面白いものの、後半は主に双子の繋がりばかりがクローズアップされ、弟と女優の関係が隅に追いやられる恰好になってしまったのは残念
 
一人二役のジェレミー・アイアンズが好演
 
(2022 - No.82)

 
大いなる沈黙へ
  グランド・シャルトルーズ修道院」(2005)
監督: フィリップ・グレーニング
撮影: フィリップ・グレーニング
 
11世紀にアルプスの深い山間に建てられ、カトリックのなかでも最も戒律が厳しいと言われる会派の修道院の日常を、音楽・ナレーション・照明無しという条件のもとに監督ひとりが半年間そこで生活しながら撮影。演出がほぼ介在しない点では極めてドキュメンタリーらしい作品
 
ここの修道士たちに会話が許されるのは日曜午後の散歩時だけであり、あとはただひたすら祈りに身を捧げる。静謐な映像のなかで鳴り響く聖なる鐘の音が自分の心の澱を洗い流していくように感じられた
 
(2022 - No.84)
 
いぬ」(1962)
監督: ジャン=ピエール・メルヴィル
脚本: ジャン=ピエール・メルヴィル
撮影: ニコラ・エイエ
主演: ジャン=ポール・ベルモンド
 
メルヴィルは物語の導入部を描くのが上手い。服役を終えた男がかつての仲間のもとへと向かい、やにわにその相手を撃ち殺すという本作の「つかみ」も大変鮮やかだ
 
男同士の友情をテーマとする点はメルヴィルが後に撮る「仁義」に通じるものの、後半におけるタネ明かしの仕方がまるでTVドラマのような安直さで、全体的に作りの甘さを感じる
 
主役はベルモンドではなくセルジュ・レジアニと言ってもいいのではないか。ローワン・アトキンソンと黒沢年男を足して二で割ったみたいな風貌だが、なかなか渋い雰囲気を醸し出していた。それに較べるとベルモンドの軽さが今ひとつ浮いている風にも思われる
 
(2022 - No.85)
 
火祭り」(2006)
監督: アスガー・ファルハディ
脚本: アスガー・ファルハディ 他
撮影: ハイェデェ・サフィヤリ
主演: ハミッド・ファロクネジャード
 
結婚を間近に控えた若い女性がハウスキーパーとして訪れた家で目の当たりにする夫婦関係の現実を大晦日の一日に限定して描く
 
今この瞬間にもどこかの家庭で本作と同じことが起きていそうなリアリティ。現実的な台詞の精度の高さとそれを操る俳優の演技力が共に素晴らしい
 
同じファルハディの「セールスマン」では妻役を演じたタラネ・アリドゥスティがここでは家政婦に扮する。まだあどけなさを残すその表情が初々しい
 
(2022 - No.86)
 
肉屋」(1969)
監督: クロード・シャブロル
脚本: クロード・シャブロル
撮影: ジャン・ラビエ
主演: ステファーヌ・オードラン
 
親しい男が連続殺人犯ではないかという疑心暗鬼に揺れる女教師の心理を描いた作品だが、その男の側からの視点に乏しいためサスペンス性にもドラマ性にもパンチに欠ける。女と男が並んで歩きながら話す場面を正面から長回しで捉えたショットなどカメラワーク面での冴えは随所に感じられた
 
(2022 - No.87)
 
悪魔のような女」(1955)
監督: アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
脚本: アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 他
撮影: アルマン・ティラール
主演: シモーヌ・シニョレ
 
私学の校長を務める男がそこで教鞭をとる妻の同僚と公然と愛人関係を結ぶ設定はあまりにも現実味が薄い。妻と愛人で校長の殺害に及ぶ展開も何となく先が読めてしまうのだが、それでも最後まで飽きさせずに見せてしまうのはひとえに肝の据わった愛人に扮したシモーヌ・シニョレの存在感によるところが大きい
 
(2022 - No.88)
 
影なき殺人」(1947)
監督: エリア・カザン
脚本: リチャード・マーフィー
撮影: ノーバート・プロダイン
主演: ダナ・アンドリュース
 
演劇的要素のある法廷ものはブロードウェイでも活躍したエリア・カザンと相性がいいように感じられた。マーロン・ブランドを始め数多くの名優を輩出したことで知られる「アクターズスタジオ」の母体となった「グループシアター」時代からカザンと共に活動してきたリー・J・コッブやカール・マルデンが出演。特に警察署長に扮したコッブの演技力が際立つ。やたらと音楽で演出効果を狙う傾向が窺えて、それが耳障り
 
(2022 - No.89)
 
"Movies I watched in 2022"
 
年明け8日がデヴィッド・ボウイ75回目のバースデーだったこともあり、彼が主演した「地球に落ちてきた男」でスタートした本年の映画鑑賞。ラストはアントニオーニの「赤い砂漠」で締めて、再鑑賞を含む合計91作品を観た。途中どうにも映画鑑賞の意欲が薄れ、肩の凝らない「ジョン・ウィック」シリーズなどの非現実的フィクションの世界をそれなりに楽しんだりもしたが、結局のところ自分のなかに残るのはちっぽけな脳味噌をフル回転させてあれこれ迷いながら感想を綴った作品ではないかとあらためて思い直し、それがこのブログを開設するきっかけともなった

 

本年鑑賞したなかで特に印象深い作品を順不同で挙げるならば、「ジョニーは戦場へ行った」「復讐するは我にあり」「第三の男」「情事」そしてつい先日観た「地獄の黙示録」の5本。いずれ劣らぬ名作ばかりなので新鮮味はない。近年製作で評判のものにも興味はあるのだが、手が伸びるのはどうしても70年代以前のフィルムが中心になってしまう

 

来年は「面白い」「つまらない」「難しい」といった映画の表面的な部分だけではなく、もっと本質的な部分を「読み」たいと思うのだけども、よく考えれば毎度こんな理想を掲げている気もするし、きっとまた性懲りもなくどれも似たようなレビューを書き連ねているのだろう

 

兎にも角にも、拙いレビューではありますが

来年もどうぞよろしくお願いします

 

Goodbye 2022