Jeanne Dielman,23,quai du Commerce,1080Bruxells
監督: シャンタル・アケルマン
脚本: シャンタル・アケルマン
撮影: バベット・マンゴルト
主演: デルフィーヌ・セイリグ
 
先頃、英国映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画トップ100」の最新版ランキングが発表された。そこで「めまい」「市民ケーン」「東京物語」など謂わばシネマ「レジェンド」たちの上をいくベストワンとされたのが、この「ジャンヌ・ディエルマン」だった
 
これまで私は本作のタイトルも監督を務めたシャンタル・アケルマンの名前も全く聞いたことがなかった。つまり作品の存在そのものを知らなかった。それがベストワンと言うのだから、いささか狐につままれたような気分だ。単に自分が知らなかっただけなのか、それとも埋もれていた名作が再評価されたのか、何はともあれとりあえず鑑賞してみた
 
6年前に夫を亡くしたジャンヌ。高校生のひとり息子と暮らす彼女の日常生活のうちの「3日間」を描いた話だが、まずはその尺の長さに驚かされる。あの「地獄の黙示録」完全版と同じ202分だ。ただコッポラの大作と違うのは「ジャンヌ・ディエルマン」では最後の数分を除けば劇的な出来事が一切起こらない点だろう
 
撮影スタイルが非常にユニークだ。カメラを動かさず、極力カットを割らず、セリフは最小限、音楽は僅かにラジオから流れる曲のみ。ここまで徹底された映画を観たのは恐らく初めてではなかろうか
 
例えばジャンヌがマッシュポテトを作るためにキッチンで数個のジャガイモの皮を剥くシーンではカメラは正面に据えられたまま作業を始めてから終えるまでずっと回り続ける。その間にセリフは一言も発せられず、ただひたすら彼女の姿だけを撮るという究極のワンショット
 
映画ではドリーやクレーン、ハンディなどを用いた流麗な動きのカメラワークが評価の対象となりがちだが、本作における定点撮影へのこだわりはある意味それらに対するアンチテーゼと考えられなくもない
 
文字通り「判で押した」ように同じことを繰り返す几帳面なジャンヌの生活に少しずつ軋みが生じて迎えるラスト。全てはこの場面を語るうえでの長い前フリだったとも受け取れる
 
映画ファンとして総体的に判断して「ジャンヌ・ディエルマン」が「市民ケーン」よりもいいかと問われたら答えに窮するのは否めないものの、他に類を見ない独自性を持つ作品であるのは間違いない
 
(2022 - No.80)
 
 
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