" L'avventura "

監督: ミケランジェロ・アントニオーニ

脚本: ミケランジェロ・アントニオーニ 他

撮影: アルド・スカヴァルダ

主演: モニカ・ヴィッティ

 

若い頃、この「情事」を含めて幾つかアントニオーニの作品を観たものの、当時の私にはその良さになかなか理解が及ばなかったが、今回あらためて本作を鑑賞してみれば如何にこれが素晴らしいかを遅ればせながら実感するに至った

 

タルコフスキーやマリックの映画を「詩」とするならばアントニオーニの映画は「小説」ではなかろうか。実際、画面を追う私の脳裏にはモニカ・ヴィッティ扮するクラウディアが一人称で語る文章がまるでテロップのごとく流れていた。それはある意味において「読む映画」と言い換えられるかもしれない

 

荒れる海、波に揺れる船、風にざわめく木々などの風景は登場人物たちの気持ちを表し、心の微妙な距離感は構図のなかに示される。南イタリアへのヴァカンス中に失踪した友人アンナを探す過程で彼女の恋人サンドロと相思相愛の関係に陥ってしまうクラウディアの姿から窺える「移ろいやすさ」は、遠い昔からほとんど変わらぬシチリアの街並みとの対比になっている全体像を含めて、実に細部まで考え抜かれていることに気づく

 

行きずりの黒髪の女と抱き合っているところをクラウディアに見られさめざめと泣くサンドロ。そんな彼を咎めるのではなく優しく頭を撫でるクラウディア。アンナを思う彼らの心情を推し量るべく「行間を読む」ようなラストシーンは特に印象深い

 

なぜ多くの監督たちが影響を受けた作品として「情事」を挙げるのかが初めてわかった。もし仮に私自身がフィルムメーカーの仕事に携わっていたとしても、やはり「情事」みたいな映画を撮りたいと願わずにはいられなかったはずだ

 

「愛の不毛」といういささか陳腐にも感じられる言葉で括るには、あまりにも存在意義の大きな傑作である

 

(2022 - No.76)