" Aguirre, der Zorn Gottes "

監督: ヴェルナー・ヘルツォーク

脚本: ヴェルナー・ヘルツォーク

撮影: トーマス・マウフ

主演: クラウス・キンスキー

 

スペイン人の征服者らが黄金郷発見のためにアマゾン奥地を目指したとする史実に基づきながらも、その行軍の過程において大密林の脅威やカニバリズムの習慣を持つ先住民への恐怖、食物不足による飢餓などが重なり、リーダー格の人物の言動が常軌を逸していくというストーリーにはジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」の影響を強く窺わせる

 
まずハリウッドならば巨額の制作費を投じたうえでスペクタクル大作に仕立てそうな題材で、辣腕プロデューサーたちが泣いて喜びそうな劇的エピソードにも事欠かない本作だが、その語り口は割合淡々としており、長尺がお決まりのこのジャンルとしては珍しく上映時間が100分にも満たない。個人的にはもう少しドラマティックにしてもいいのではと思うのだけども、そう考える私の感覚自体がもはや商業主義に毒されている証なのか
 
オーソン・ウェルズやスタンリー・キューブリックが「闇の奥」の映画化を熱望しながら実現しなかった理由には恐らく未開のジャングルでの撮影が困難だったことも挙げられるのだろうが、アフリカと南米という違いはあるにせよ原生林の奥地へキャストとスタッフを入れてそれを敢行したヘルツォークにはただ称賛の言葉しかない
 
夜間のシーンがごく一部に限られたのは照明を含む問題が色々とネックになったのではないかと推測される。その分、日中の場面には作り物ではない「生」の迫力が溢れる。断崖絶壁の道を連なって歩く一行がロングで捉えられた冒頭部を始め、泥色のアマゾン河急流をいかだで漕ぐところなどはぜひ大きなスクリーンで観てみたかった気がする
 
接岸した際、「先住民は馬と黒人を畏れるから」と奴隷の黒人を裸にして先頭を歩かせるスペイン人。遡行途中で出逢った先住民に「神の有難い言葉が書かれている」と手渡した聖書を放り投げられたために「神への冒涜だ」として簡単に彼を刺し殺すスペイン人。いかだで漂流するスペイン人たちを目にして「肉だ、肉だ、肉が流れて来た」と叫ぶ先住民。文明人も非文明人とされる者もその境目が紙一重なことはコンラッドも書いていたが、結局人間なんてやつは一皮むけば野蛮で空っぽな存在に過ぎないのかもしれない
 
頬のこけた顔で異様に眼ばかりをギラつかせた主人公アギーレの姿は「闇の奥」のクルツを彷彿とさせる。先住民の襲撃で周りが全て死に絶え、独り残されたなかで「我こそは神の怒りだ」と口走るアギーレには昨今の身勝手な為政者のイメージがどこか重なるように感じられた
 
(2022 - No.74)