今回も LU 分解の続きである.線形代数に興味のない方は残念ですが,飛ばすとよいでしょう.
前回は Elimination matrix のかけ算の結果 $L$ はもとの Elimination matrixの要素それぞれの符号反転であることを見た.それがどうした,というかもしれないが,行列の掛け算の答えが,掛け算せずにわかるというのは便利なものだ.
まずは一つ最初に注意しておこう.前回のL = (E_{32} E_{31} E_{21})^{-1}では,各要素の数が符号の反転だけで保存されていた.しかし,これは (E_{32}E_{31} E_{21}) では保存されない.Lという逆行列の時に保存されることに注意すること.実際に,
であって,E_{31}は保存されていない.(この例ではE_{31}だけ符号が反転しているだけに見えるが,Gilbert Srang の本の 103 の問題 8 を解けばそれだけではないことがわかる.)
これは直感的には左から作用する行列の row に関する性質による.2 x 2 の行列で説明してみよう.2 x 2 の Elimination 行列(E_{21})は下三角では式7のようになる.これは式8 に示すような列に対する操作として考えるとわかりやすい.連立一次方程式を解く時に第1行にl_{21}を掛けて第2 行に加えるということと同じである.この逆行列が式9となることは 2x2 の行列の逆行列の公式からもわかるが,考えてみれば,第1 行にl_{21}をかけたもの(l_{21}a_{r_1})を引けば,l_{21} a_{r_1} + a_{r_2} - l_{21} a_{r_1} = a_{r_2}のように元に戻ることはわかると思う.2 x 2 の場合には,逆行列の公式が使えるから,こんな他の解釈は別にいらないという考えもあるだろう.学校での試験では直接一般の2 x2 の逆行列が求まる公式は使えるが,このrow に関する操作という考えは,行列の大きさによらないところが優れている.つまり,この考えは Elimination 行列でしか使えないのではあるが,3 x 3, 4 x 4, そして n x n でも成立するところが優れている.そして一般の問題は n x n である.
L,U は Elimination の性質から,必ず 0 になる部分が以下のようになる.
L は下半分(Lower)に 0 でない要素が,U は上半分(Upper)に 0 でない要素が並ぶが,L の下半分にたまたま 0がある場合,U の上半分にたまたま 0がある場合には以下の性質がある.(Gilbert Strangの本のp. 96を参照)
1. 行列 A の行が 0 からはじまる場合,L も同様である
2. 行列 A の列が 0 からはじまる場合,U も同様である
まず 1. は既に Elimination が終わっているから0になる.なぜならElimination は 0 でない要素を消去する方法であったので,要素が 0 になっていたらもう Elimination をする必要がない.だからその要素は 0 になる.次に2. は,Elimination が行の上の方から作用することに関係している.たとえば,U の 3 行は A の 3 行から 1 行と2行の linear combination を引くことでelimination される.すると,行列の上の方に 0 があれば,その linearcombination も 0 であるから( l_{31} t0 + l_{32} 0 + 0 = 0),2. が成立する.
さて,結局やっていることは Elimination である.なぜ Eliminationそのものを実行して終わりではなく,LU 分解という形に変形するのであろうか? 私が理解する限りでは,2つの理由がある.次の回ではようやくその理由,なぜ消去法で答えがわかるのにもっとややこしい LU 分解などというものをするのか,について話をしたいと思う.