「何か」について | Chandler@Berlin

Chandler@Berlin

ベルリン在住

English version

もう一度この入力と出力に使われている○について話をしよう.○というのは「何か」を示している.

マービン: また「何か」...疲れた.

「何か」って何だ? と言う意見はもっともである.「何か」とはたとえば「お金」を示しているとしよう.「お金」を入れたら「(同じ)お金」が出てくるというのが,「λ○.○」である.増えたりも減ったりもしない.入れた分だけ出てくるのである.だから,100アルタイルドルならば100アルタイルドル出てくるわけである.200アルタイルドルならば200アルタイルドル.(何らかの)アルタイルドルならば(正確に同じ何らかの)アルタイルドルが出てくる.「何か」というのはこういう意味での「何か」である.具体例を言ってしまっては,表現が制限されるので,「何か」というのだ.これは抽象化された考えである.学校ではそういうものを総称して X とする.というふうに習っているので,X と言った方がいいかもしれない.X を入れると X 出てくる.

それならば,「λ□.□」も同じ意味である.□を入れたら□が出てくる.同様に「λx.x」「λy.y」もまったく同じ函数を示している.ただ,λ計算の人達は慣習的に「λx.x」と書くことが多い.「何か」を入れたら「何か」が出てくるというのはそういう意味である.ここで「何か」って何だ? と聞かれても「だからそれは『何か』です」と数学者は答えるだろう.これはあなたをからかっているのではない.図にλ式の構造を示しておこう.


Chandler@Berlin-lambda_x.x


自動販売機のたとえに戻ろう.100アルタイルドルを入れた時だけ,100アルタイルドル分のシリウス行きの切符を売る自動販売機は簡単である.これは行き先も値段も固定されている自動販売機である.このような機械で古いものとしてはアレキサンドラのヘロンの記述がある.

しかし,もし150アルタイルドルを入れたら,150アルタイルドル分のオリオン行きの切符を売ることもできる自動販売機だともっと便利である.そして,クレジットカードを入れたら,宇宙の果てのレストラン行き予約のチケットが出たり,あるいは Kreuzberg のコンサートまで手配できればもっと便利である.つまり「何か」の範囲が広い方が便利だということは賛成してもらえるだろうか.ここでは最初入力の「何か」は100アルタイルドルだった,それがどんな値段でも良いアルタイルドルになり,クレジットカードになった.出力の「何か」はシリウス行きのチケットだけだったが,オリオン行き,レストラン,コンサートと広がった.そういう「何か」を本当に「何か」全てとして考えようというのが,函数という考えなのである.

「何かって何だ?」「何かです.」の意味がわかってもらえたらこの節の目的は達成された.最後にマービンのコメントを聞こう.

M「私を設計した技術者は,一般両替機の開発をしていました.普通の両替機と違うのは入力に物を入れるとそれと同等の価値の何かを出すところです.あなたが3ヶ月かかって書いたソフトウェアを入れたら冷や飯とタクアンが出てきたやつです.」

I:「あの機械(函数)は壊れていたと聞いているが」

M:「確かに,私はタクアンが付くのはおかしいと思っていました.」

I:「...」