③高級ホテルからの木賃宿

 

さて、今日の宿場所を大体決めていたのだが、どこで下りたらいいのか分からなかった。運転手との相談の結果、かの有名なラッフルズホテル近くのバス停でとりあえず降りてみることにした。

 

  しかし、地図を見ても方角すら分からず戸惑っていたが、ラッフルズホテルが分かれば全て解消できるはずなので探しにかかった。でもわからない。(ここどこやねん)

 

  ちょうど、土曜日の夜で街にはたくさんの夜遊び連中で溢れ返っていた。交差点で信号待ちをしている女子大生風のグループ5人組に声を掛け、場所をきいてみた。すると、二人がその方向に行くからついてきて、と言う。

  彼女達は遊びの帰りらしく、そこで別れの声を掛け合い、おのおのの家路に別れていった。

 

オイラが、二人の後に付くこと五分。かの有名なラッフルズホテルが、夜の姿で現れた。(オッ、これこれ。ホンモンや)

オイラは礼を言うと、彼女たちは颯爽と雑踏に消えていった。

 

夜のラッフルズは、ホワイトハウスがホテルになったような姿で、その白さが暗闇の中で一層目立つ。それは、まさに存在感があり、いかにも重宝されている建築物だと見受けられた。(ここにほんとは泊まりたいわあ)

 

オイラは、建物から一本挟んだ道端で地図を広げ現在位置を確認し、予定している宿に急いだ。もうすでに10時を過ぎている。

 

シンガポールの木賃宿が集まる地域は、ベンクーレン・ストリートが有名なのだが、最近は都市化が進み値上げされ、人気をビーチ・ストリートに奪われてきている。

 

この今いるビーチ・ストリートは中心部により近く、とても便利そうだ。オイラは、この近辺を基点にしようと考えていた。

かれこれ15分。夜道をとにかく歩いた。

やっとのことで、目的地にたどり着くが、どうも暗くて入り口が分からない。(場所的にこの通り辺りなんやけど、入り口がわからんよ~)

 

人通りのある場所でウロウロしていると、遠くでどこかのおやじさんが、手招きしているではないか。(あれ、もしかしてどっかの宿の親父?)

オイラは、親父の後ろについて、カレー屋の横にある階段を昇っていった。そこの受付に行くと、ワッフルズ・ホームスティと看板が架かっていた。(オッ!ここだよここ。ビンゴや)

二階の受付には、ちょうど二人の白人が並んでいた。まず、一人の先客が部屋に案内されていく。

オイラは、受付で残されたもう一人の白人に声をかけた。

「こんばんは」

「こんばんは」

「どちらから来られたんですか?」

「あぁ、フランスです」(いいねいいねえ)

「おぉ!アンシャンテ!アンシャンテ」

「アンシャンテ!」

 

お互い握手を交わし、これまでの道のりを簡単に話し合っていた。

まもなくすると、宿の親父が戻ってきて、今度は彼の案内を始めた。

やっとこさオイラの番がまわって来たと思ったら、そこは部屋ではなく、なんと二階から三階に昇る階段の真下ではないか。いわゆる2階の廊下のちょうど脇にあたる場所にベッドが申し訳そうに設置してあった。(マジでここ?単なる階段の下やん)

 

  そこには、シングルベットとダブルベットが一つずつ置かれており、シングルの方に案内されたのだ。この場所は、かなり人の目に付きやすいし、四六時中、荷物が心配でならない。かつて、オーストラリアでもいろいろドーム部屋に泊まったが、廊下脇に寝たことはなかった。(これ酷いよなあ)

 

  オイラは、あまりの驚きでしばらく言葉を失ったが、少し考えて3階に上り、ドーム部屋を確認しに行った。

そこにドーム部屋はなく、廊下脇にベッドが並べられていた。そこには、先ほどのフランス人がいるではないか。よしよし。

 

「ここ満員だね」

「そうみたいだね」

「ところで、明日はどっかシンガポール観光するの?」

「明日は、ここを立つ予定なんだ」(残念無念やな)

「そっか。じゃあ気をつけてね。ボンニューイ!」

「ボンニューイ!」

 

オイラの手前で三階は満員、しかもフランス人にも振られてしまった。どうもついていないようだ。

さて、これから新しい宿を捜すのは言語道断だろう。今後のために宿代を安く済ませたいので、とりあえず一晩様子を見ようと、一晩10ドルのベッドで手を打った。

 

  その後、新たに二人組みが現れ、隣のダブルベットに案内されてきた。(オッ、来た来た)どうやら彼らも、オイラと同じように、驚いた表情を隠せず、目を丸くして宿主の話を上の空できいているようだった。(やっぱびっくりするよな)

 

  宿主が去った後、二人は相談し始め、荷物を持って受付の方に向かっていった。そして、今度は別の部屋へと親父さんに案内されていた。どうやら、彼らは個人部屋に変更したようだ。

結局、その日の2階廊下脇は、オイラ一人で過ごすことになった。(オォ、寂しいのか、恥ずかしいのか、ようわからん感じやなあ)

 

オイラは、荷物の整理が済んだ後、荷物にきっちりと鍵をかけ、水のシャワーを浴びた。そして、すぐに床についた。しかし、この南国の暑さとすぐ横の廊下を歩いて行く人の足音でなかなか寝付けない。(これじゃあ、寝れんよ~~)

 

  ちょうど、横壁には、二つの扇風機が備え付けられていた。オイラは、その二機をフル回転させた。しかし、いっこうに汗は止まらない。(シャレにならん暑さやねえ)

ほんと、あまり暑すぎる。寝るとかそんな状況ではないのだ。

 

もう、我慢の限界だ。オイラは、生まれたままの姿になり、支給されたタオルケットを一枚被った。たぶん、頭もやられているのかもしれない。

 

これは、真冬の地から来た者にとって拷問にも思える暑さだ。(オイラは刑務所に来たんじゃねえよ)

 

結局、その夜は寝ていたのか起きていたのか分からない時間を彷徨った。

 

 

クライストチャーチ空港税 NZ$25       シンガポール宿 S$10.0

バス代 S$1.5    ビール S$2.9     夕食(マクドナルド)S$5.7