何かが足りない-第十一章 切ないキモチ-
前回までのお話は、こちら(目次) から
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お昼過ぎになって、私は彼に送ってもらった。
目深に帽子をかぶって、彼は私の家へと車を走らせる。
私は横目で彼をチラッと見る。
笑顔をくれない彼を見て、なんだか悲しくなった。
もしかしたら、今日を機に彼は冷たくなってしまうのかもしれない。
そんな気がして、私は彼から目を背けた。
今までの恋愛は、こういう風になる前に付き合おうっていう言葉があった。
だけど、今回は、そういう言葉がない。
このままどうなるのだろう。
来週も遊んでくれるんだよね?
そんなことも聞けないまま、私は車を降りた。
「ありがとうございました。」
彼は何も言わず、片手を上げて、帰っていった。
遠ざかる車を眺めて、私はため息をうった。
昨日までの幸せな気分は、もう既になかった。
家に入って、深呼吸して彼にメールをいれてみた。
『ありがとうございました。また明日会社で。』
それに対しての返事はなかった。
私、一体何をしているんだろう・・・
ベッドに仰向けになって、昨日からの出来事を思い返した。
『好きだよ』と何度も私の耳元でささやいた彼の声を思い出した。
でも、いつもの恋愛とは、違いすぎて、どうしていいのか分からなかった。
付き合うという言葉があるのとないのとでは一体に何が違うのだろう?
そんなことをボーっと考えた。
付き合おうっていってもらえたら、ヤキモチを妬く資格がある。
だけど、その言葉がなければ、ヤキモチを妬いたとしてもぐっと心の中でそのキモチを押し殺さなければいけない。
そんな気がした。
他の女の子と彼が遊んでいても何も言う資格が私にはない。
でも、彼と一緒にいたい。
涙が出そうになったけど、ぐっとこらえた。
気がつくと日が暮れていた。
私は、ひとつため息をうった。
明日、彼に会ったら、普通に笑顔で挨拶しよう。
そして、何も気にしていないフリをしよう。
服を脱いだ時、彼のにおいがした。
この切ないキモチはどこにむければ、いいのですか?武志さん。
そう心の中でつぶやきながら、私はその服についた彼のにおいを確かめるように、その服を抱きしめた。