何かが足りない-第四章 行き止まり- | 恋愛マグネット

何かが足りない-第四章 行き止まり-

前回までのお話は、こちら(目次) から

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二人でご飯を食べに行った次の日は彼からメールは来なかった。
今までも土日はメールが来なかったけど、初めて二人で食事に行った次の日だから妙に寂しかった。



私は、寂しくなって、友人の圭介 にメールをした。


『今日は何してるの?』
彼なら、私をほったらかしにしない。何らかの反応をしてくれるはずだ。

するとすぐに電話が鳴った。

やっぱり圭介はいつも期待にこたえてくれる。


「もしもし、ユウコからメールしてくるなんて珍しいな。どうかしたか?」
「ううん。暇だっただけ。」
「本当は寂しかったんじゃないの?」


時々圭介は、ハッとすることを言う。



「そんなわけないじゃない。」
「ユウコご飯でも食べに行くか?」
「二人は嫌だなぁ。」
「じゃあ、誰か誘えよ。」
「土曜日に誘っても皆デートしているよ。」
「なんか、今日のユウコはえらく悲観的だな。」


しばらく、話をして、電話を切る。

はぁ・・・元気が出ない。


その翌日の日曜日もやっぱり連絡はなかった。

木室さん、やっぱり彼女いるのかな・・・気になっちゃうよ。



私は、高校時代の友人、サオリに電話した。
「もしもし、今日、何してるの?」
「ユウコごめん。今、旦那と子供と一緒に外に出てるんだ。また夜かけなおしてもいい?」
「あっ、ごめんごめん。たいした用じゃないんだ。だから、ゆっくり楽しんできて。」
「うん。ごめんね。また電話するよ。」
「はーい。じゃあね。」



短大を卒業後、銀行に就職し、すぐ社内恋愛で結婚したサオリにはもう3つの子供がいた。
幸せそうな、サオリを見ていると、私は喜びと嫉妬が入り混じった感情になるのだ。



私とサオリと何が違ったのだろう。
同じ高校に入り、同じように就職し、同じ時期に彼氏も出来たのに・・・

ダメだ。マイナス思考は、余計に運気を悪くする。
そうだ。明日着ていく服を考えよう。



クローゼットを開けて、服を眺めた。
木室さんと横に並んで似合う服は・・・。
明日は、この白のシャツワンピにしよう。
アクセサリーは、これにして。

そうだ、今から明日のメイクの予行練習をしよう。

私は部屋で一人、念入りに化粧をした。
マスカラを目頭から目尻まできっちり塗って、鏡に向かって挨拶をした。



「木室課長、おはようございます。」

何度も色んな角度から挨拶をして、最後、馬鹿らしくなってベッドに横たわった。

「ああ、つまんない!」

時計を見るとまだ3時。



せっかく化粧したし、外に出よう。



ひまわり



私は、Tシャツとジーパンに着替えて、近所のショッピングセンターに出かけた。
最近出来たこのショッピングセンターは、家族連れでいっぱいだった。
化粧品売り場で新色の口紅を見て、その後、寝具売り場に行って、ベッドカバーを見る。
3点で3980円か、これにしようかな・・・でも、これにしたら、微妙にカーテンと合わないな・・・
やっぱり、無印で買おうかな・・・



そんなことを思っていると後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。
「これなんか、いいんじゃないか?」

後ろを振り向くとそこには彼がいた。


あっ、木室さん。


彼の横に目をやると、私より少し年上に見える女性が立っていた。
私は、全身が氷になったみたいにそこから動けなくなった。

私の視線に気づいた彼は、こちらに向かって歩いてきた。
「あっ、吉岡さん。」



その人は彼女?それとも木室さんの奥さん?誰?
その人の前では私のこと吉岡さんって呼ぶんだ・・・


「こんにちは。えっと・・・」

「ああ、僕の大学時代からの友人の田丸さん。」
そういって隣の女性を紹介した。


「田丸です。こんにちは。」
清楚な感じの彼女がこちらを見てニッコリと微笑んだ。


「この子は今うちの会社で働いてくれている吉岡さん。彼女仕事がよく出来て、ホント助かってるんだ」
私は、さっき鏡で練習した笑顔なんて出来ないまま、ひきつった笑顔で軽く挨拶した。


「木室課長は、よくここにいらっしゃるんですか?」
「まさか、初めてだよ。田丸さんが、この近くでマンション買ったっていうから、今日はそのマンションで他のメンバーも集まって引越パーティするんだ。」
「武志、彼女も呼んであげたら?」


武志?呼び捨て?どういう関係??



「吉岡さんも来る?」
優しい笑顔で彼が私に問いかけた。


「せっかく誘っていただいたのにすいません。私、この後まだ用事がありますので。」
「そうか、残念だな。」
「はい、じゃあ、木室課長、月曜日に。」

私も出来る限り爽やかにその場を立ち去った。
田丸さんの挑戦的な瞳が私の後ろに突き刺さっているような気がした。


もうダメだ。私、どうして外に出たのだろう。
そして、何を思い上がってたんだろう。


私は、震える足にぐっと力を入れながら、歩いた。

トイレに入った。涙は出なかったけど、震えがとまらなかった。



寂しい。



気がつけば家に帰ってきた。
鏡を見ると、念入りにつけたマスカラがとれて、目の周りが黒くなっていた。



彼女を見たからって何を動揺しているのよ・・・私、勝手に彼女になれる気分でいた。
馬鹿だな・・・


メイクを落とし、お風呂に入った。


明日からも普通に過ごさないと。


夜10時。携帯が鳴った。


彼からだった。私はドキドキしながら電話を出た。

「もしもし、ユウコちゃん?今日はごめんな。気を使わせたな。」
少し酔っ払っている様子だった。

「別にそんなことないですよ。彼女さん綺麗な人ですね。」
「えっ、彼女?田丸のこと?まさかあいつが俺の彼女?」
「はい。そうじゃないんですか?」
「大学時代の友達って紹介しただろ?」
「あっ、はい。でも・・・」

「違う!違う!あいつのこと女としてみたことないよ。
あいつバツ2だし。しっかりしてるから俺と付き合ったりしないな。」

そういって彼は電話口で笑った。

私はかなりホッとした。


「ああ、そうなんですか、てっきり彼女かと・・・」
「彼女って言ったほうがよかった?」
「どっちでも、関係ありませんから。」
「ちょっとはヤキモチ妬いてほしかったな。」

「ホントですか?ある意味ヤキモチ妬いたら木室さんひいてしまうでしょ?」

「そんなことないよ。かなり嬉しい。ところで、ユウコちゃんの家、あの近くなの?」

「あっ、はい。」

「じゃあ次から、あのショッピングセンターで待ち合わせできるね。」

「えっ?うちに来るんですか?」

「ダメかい?」


田丸さんのこと、かなり妬いてたけど、妬いてたなんていえるわけなかった。
でも、どうして、二人で歩いてたの?
私のこと、どう思ってるの?



その後、少し話をして電話を切った。
「よかった。」

私は大きな独り言を言った。


思い通りにならない恋は、不安とイライラが一緒にやってくる。


違う恋に進もうとしても全てが不完全燃焼で進めない。
そのときの私は、彼から前にも後ろにも進めずに、ただそこに立ちすくんでいた。