8月も終わりに近付くころ、私はぼぼ毎日、


彼女のマンションに通っていた。どんなに深夜に帰宅しても、


愛車KawasakiKDXを飛ばし彼女の元へ直走った。


◆妹、麗子の恋

妹の麗子がいなければ部屋に招き入れてもらえるが。殆どは階下から彼女と手話ならぬゼスチャーでの会話を数分交わし、互いにコミュニケーションをとっていた。そのうち勢いづいて彼女のマンションに転がり込むようになってしまった。

というのも、順と同居している妹の麗子にも彼氏ができて、外泊するようになったからだ。
朝方、麗子が着替えに帰ってくると、それと入れ替わるように私は寮に戻った。普通ならば、互いに顔を突き合わせたなら、ばつの悪いものだが。麗子も外泊した罪悪感から笑顔で私を見送っていた。まるで共犯者のように 互いにその罪を見て見ぬ振りをしていたのだ。

麗子もその年、大学を卒業して某証券会社に入社した。姉は大学時代に語学留学で1年渡米していたので、同じ年の入社という訳だ。
麗子は姉の順とは全く性格の違うタイプだった。順は女優でいえば黒木瞳タイプで、お淑やかで気の優しい女性だったが。麗子は女優でいえば杉本彩ばりの気の強い女性だった。


そんな妹麗子も人の子。ついに恋に堕ちたのだ。


◆恐るべし肉食系女子の恋愛術

彼女は某証券会社秘書室に配属され、大学時代ゴルフ部だったこともあり、週末はゴルフ接待によく借り出されていた。バブルということもあり、夜昼、接待漬けだった訳で、彼女の周りには、上は60歳から20歳までの男連中がまとわりつくようにしていた。しかし、そこは麗子のほうが役者は一枚上で、彼等を虜にしながらも、一線をひく手綱さばきは、姉の順も舌を巻いていたほどだ。

当時はアッシーやメッシーといった、情けない男が沢山いた。好きな女性なら、呼び出しが有れば何処でも、そして何時でも女王様を迎えにいく。女性にすればていのいい専用タクシーのようなもの。彼等はいつか女王様が振り向いてくれると、淡い期待を持つのだか、春は永遠に巡ってはこなかった。

麗子は賢い女性で、役回りの男性と何人も関係をもちながら、深みにはまらない巧妙な手口をやってのけていた。私達は彼女のそのしたたかな女の手練手管に空いた口がふさがらなかった。

彼女の前の彼氏とは、何度か食事で会った。おぼっちゃまタイプの気優しい性格で人懐こっこい男性だった。人は自分に無いものを求める習性があるが、まさに麗子にピッタリの男性だったように思う。しかし新しい彼は、それまでのタイプとは全く違う素晴らしい男性だというではないか。当時それを麗子から聞いて大変興味をそそられたものだ。

彼は当時28歳の青年実業家、実家は順と同じ不動産など手広くやられている資産家の長男、180cmの長身で爽やかな顔つき。ゴルフを通じで仲良くなっとそうで、麗子の話では、彼の包容力とたくましさ、そして優しい心遣いから、恋に落ちてしまったとか。

肉食系女子の恋愛とは意外とウブなものだった。気の強い女性はかえってナイーブな恋に落ちてしまうのだろうか。麗子に背を向けながら一人笑っていたのを思いまだす。彼女も人の子なのだ。

何にしても取り巻きの多かったお転婆娘が落ち着いたから、姉の順もホット胸をなでおろし、その安心感から、うっかり妹の事を母に告げてしまった。

愛情とは実に非情なもの・・・。

姉の順の想いとは別に歯車が回ってしまった。彼氏の事を耳にした母は、また例の心配症を巻き起こし、東京に上京するというのだ。

人生にはブラスとマイナスが常に合わさってやってくる。



招かねざる客がやってこようとは


その時、麗子には知る由もなかった。

つづく。

人気ブログランキングへ