彼女のお見合い騒動が決着がつかぬまま

私と彼女は夏の風物詩である、

京都の祇園祭に出掛けた。



◆不安を抱えたままの初旅行


梅雨の余韻残る頃、宵宮の日に私達は京都入りした。その夜早速、祇園にくりだし、たまたま立ち寄った料亭「香雲」で、最高の冷製スープを頂くことができた。有名料亭「和久傳」の斜向かいにある、小さな町家を改装し、白木のカウンターと6畳敷の御座敷だけのひっそりとした佇まいのお店だった。東京での煩雑な生活から解放されたせいか、大変心地良かった。その後、このお店が漫画の「美味しんぼ」にも登場したと聞いて、運がよかったと、二人の語り種になっていた。
※現在はもうこのお店は営業していません。

食事を終えた二人は四条河原町を超え、宵宮で賑わう街へと繰り出した。

数日前、結婚を前提として、私との付き合いに不安を感じていた彼女だったが。この時ばかりは、楽しみにしていた初めての二人旅を大切にしようと、終始笑顔でいたのが、かえって私の心を不安にさせた。

街の各所に鉾が飾られ、チンシャンとお囃子がそこかしこから聞こえてきた。飾られた鉾に見とれ、町屋に飾られた見事な装飾品の数々に目を奪われた。

すっかり祇園祭に酔いしれた頃に、四条河原町へ戻り川床に吹く風を肴に一杯いただくことにした。

「章ちゃん、初めての旅行楽しいね。私幸せよ。」

数日前に付合い解消かと思われる発言をした女性から想像できない言葉だと思いながら、きっと最後になる旅の思い出を作ろうと彼女は気をつかっているのだろと、私は思った。

「順。楽しい?」

「うん」


言葉にならない声で頷く彼女。私は彼女の気持を大切にしようとあの事に触れないた。川床で頂く地元伏見の酒は格別で、祇園祭のお囃子に酔いながら、冗談混じりの会話を心から楽しんだ。東京に上京して以来、最も「幸せ」を実感できた一時だった。

私の大学時代はアルバイトに明け暮れ、仕送りやアルバイト代もすべて大学での教材費に消えて行く、そんな生活を、大学院を含め約6年間過ごした。念願の就職先に採用され、ましてこの上ない素晴らしい女性との京都の夜。楽しくないわけがなかった。

沢山いただいた冷酒のせいか、それまで我慢していた私の心は緩んでしまった。うかつにも、お見合い事件の続きを話してしまったのだ。

誰が何を言おうと俺はお前を放したくない。



順の両親が反対しても・・・。」


「・・・・汗


それまで弾んでいた会話は一瞬に途切れてしまった。若さ故か、私はそれまで心に溜めていた想いを堰を切ったように言葉に変えていた。彼女は最初は戸惑っていたが。彼女への想いを必死で語る私に、ついに彼女は心開いてくれた。硬派の私が「告白」をするなんて初めてのことだったが。彼女への純粋な想いが私をそうさせたのだと思う。

互いにわかり合うとき、男女の間に言葉はいらないものだ。彼女は目にうっすらと涙を浮かべ、私にこんな約束を求めてきた。彼女の両親がどんな手段に出ようとも、私が我慢すること。そしてどんな苦難があろうとも彼女を守ること。私は彼女の申し出に深く頷き約束しました。


この日が私達の幸せの始まり。

そして、想像もしていなかった苦難の始まりだとは


誰が想像できただろう。



シャンシャシャシャン、、、


シャンシャシャシャン、、、

そして、心地良い古都京都「祇園祭」の囃子の音が


私達を宵闇に包みこんでいいった。


つづく。



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