◇
中川さんの妻に電話して、(いつしびれを切らして
離婚届に押印するか)
動向を探ろうとした友紀さんだったが、妻の声を聞いた
ばかりに不安が生じてしまった。
(なぜ、彼女は哀しそうでも、投げやりでもないの?)
そのうち、(彼はたまには、自宅に帰っているのではないか?)
など、とんでもない妄想が浮かんだ。まっすぐ帰宅する江川
さん。接待のある時は友紀さんに断るか、同行を勧めた。
(でも、でも、昼間の彼の行動はわからない。
夜の取引先との宴会も、本当かどうかわからない)、と疑う
ようになった。
◇
たいていの女性が一度は考えてしまうように、友紀さんも
探偵社に追跡を依頼したい、と考えて、それとなく料金を聞いた
ら100万、と言われた。彼の月給のおよそ2/3。
比較的ケチ?な彼女は、探偵に頼むのはいやになり、
(彼が何してるか調べるのに、霊能者とか占い師なら数万で済む)
から、と占い師、霊能者周りを始めた。
どこでも、彼女の話を聞いただけで、「まあ、不倫から同棲。
彼はあなたに誠実です。これからも連れ添えるでしょう」といわれた。
それでも、有紀さんは安心出来ず、彼の自宅へのいたづら電話
(間違い電話の振りをする)を続けた。
◇
そのうち、友紀さんは、疑心暗鬼が募って、彼が奥さんの住む
自宅に帰ってでくつろいでいる様子がまぶたに浮かぶようになった。
彼は相変わらず、友紀さんにやさしく、ボーナスも給料もすべて
友紀さんの自由だったのに。
取引先や、同僚などとの昼間のゴルフなどには、もちろん、有紀さん
を同行したし、有紀さんの友人や親類にも身内のように接してくれた。
彼の愛は奥さんに無い事は確実に思えたのに。
◇
ある晩、友紀さんはまた、彼の自宅にいたづら電話を入れた。
奥さんの明るい声がした。その後から声が掛かった。
「また、いたづら電話か、切れば良いではないか」
まっ、まさか!! 一瞬自分が今、どこにいるのかわからなくなった。
それは、彼の声だった。彼は向こうにいる。
今晩は、重要な取引先との宴会のはずだった。
有紀さんは、電話口で怒鳴った。
「有紀よ、。何してるのよ、あなた」
たまたま、江川さんは自宅に行っていたのだ。子どもの教育
のことで、、。
しかし、妻子とは絶縁と考える友紀さんには納得がいかないし、
そうさせたくなかった。だから、江川さんも隠さざるを得なかった。
◇
彼は、確かに友紀さんを愛していた。だが、奥さんのことも、
気にしていた。あまりに強引に友紀さんが事を運ぶから、身動き
出来なかったが、愛とは違う感情で、妻を心配していた。
深い関係を持ったりはしなくて、家族が心配で行っていただけ
だったし、妻のところで、食事一つしていなかったが。
もう少し、ゆっくり事を運んでくれたら、奥さんのことも、きっちり
けじめをつけて別れられたのに、と江川さんは苦笑交じりに私
に話した。
今も江川さんは、友紀さんと同棲、だが、離婚は出来ていない。
妻がどうしても離婚届に押印しない、と友紀さんに訴える江川さん
だが真相はわからない。
友紀さんに見つかり、怒鳴られてから、自宅に行っていないらしいが、
真相はわからない。
◇
江川さんが友紀さんを愛し、尽くしていることは間違いない。だが、
だから他の人は、他の人といっても、妻だが、妻のことをゼロに考えて
貰うのは難しいのではないか、、。
愛する相手を乗り換える不倫。これが限界かも知れない。
328
金曜日はスピリチュアルストーリーの名称に入ります。
◇
他ブログ更新「エッセイ夢ん中 何かがあれば何かがない 」