ブラペ妄想  結果は変わりません

大丈夫な方だけどうぞ





ったく

用意周到な奴だ


自分に出来ることは、無いんだろうなとは、分かっていた

あの時に施した処置は、完璧では無い

あの悪魔のような手技は、神に愛された悪魔にしか出来ないのだ

たとえ形だけ真似ても、完璧にはならない

それは俺にもあの人にも分かっていた

それでも


生きていて欲しかったんだ


心臓を美しいと称える、神に愛された悪魔に


天城雪彦に……


だがやはり間に合わなかった


ゴールドコーストの浜辺に横たわるあいつを見た時は、こちらの心臓が止まるかと思った

急いで心臓マッサージを行い、薬剤を投与して

何とか、細い命の糸を繋いだ


目を覚ました兄は

どこか幸せそうな微笑みを浮かべていて

それが余計に苦しかった


もう、諦めたのかよ

まだできることは、他にないのかよ


俺に


あの悪魔の手技が備わっていれば…………


なぜ、神は俺にはあの手技を与えてくれなかったんだ

俺たちは双子なのに



徐々にゆっくりになってゆく鼓動

見守ることしか出来ない、その事実に耐えきれなくなる

でも俺は決してお前を1人では逝かせない

両脚にグッと力を込めて、渡海征司郎は天城雪彦の眠るベッドの横に立ち続けた



全てが見事なまでに手配されていた

葬儀はゴールドコーストのハートセンター関係者やカジノの関係者がつつがなく執り行い、海の見渡せる丘に既に用意されていた墓に埋葬された


「"ジュノをよろしく"……て、ジュノってアイツのことか?俺は子守りじゃねぇっての」


さわさわと草木を揺らす風に、文句を言ってみる


丘からキラキラ光るゴールドコーストの海へ向けて吹く風は

ふふっと笑う天城雪彦の声のようで


眉間の皺が深くなるのが自分でも分かる

ったく、俺の皺が取れなくなったら、お前のせいだからな



お兄ちゃん



さて、そろそろ用意周到なあいつの導きでアイツがやってくる頃だろうか

青い空を横切るひこうき雲を見つけ、フッと笑うと征司郎は後ろ向きのまま手を振って丘を降りた