蔵は屋敷の奥の庭に堂々と建っていた。
「すげー、立派な蔵だな」
智の呟きに城島も国分も頷く。だが、彼らには見えていない。蔵を取り巻くどす黒い霊気が。
━━気持ちをしっかり持たなくては、飲み込まれてしまいそう。
和也はふぅーっと息を吐くと、色違いの瞳に力を漲らせて蔵を見据えた。
「では、開けますね」
家主がそう言って、蔵の鍵を外して重い扉を開ける。
ギギギ、と蝶番の軋む音とともに開く扉の奥からは、僅かにひんやりとした空気が一同の元に流れ出てきた。
家主は何も感じないのか、スタスタと蔵の中に入ると後から取り付けられたと思しき白熱電球のスイッチを捻って明かりをつけた。
「どうぞ、こちらです」
家主がそう招くが、和也は中々1歩が踏み出せない。
「かず、大丈夫?」
智が和也の顔を覗き込む。心配そうに眉を下げたその顔に、強ばった和也の心がふわりと綻ぶ。
「ありがと、大丈夫。…………ねぇ、手、つないで…」
「ん、いいよ。はい」
きゅっと繋がれた手から、柔らかく清浄な気が流れ込む。
(やっぱり智の気はとても澄んでて、気持ちいい……)
和也は1つ深呼吸して蔵の方へ1歩踏み出した。