超特急でサイン会を終わらせ、━━といっても時間が決まっているので気持ち的にではあるが━━編集担当くんに頼んでおいたたい焼きを受け取り、帰るコールをしようとスマホを手に取ると、意外な人物からLINEが届いていた。
「お?松兄?」
智が十代の頃からの知り合いで、何でも屋のような探偵をしている、松岡。和也との出会いも彼がいたからこそで、智にとってはなかなかの恩人だ。
その松岡からのメッセージを確認すると、智はすぐに戻ると返信をして、呼んであったタクシーに飛び乗った。
マンションに着き、タイミングよく来たエレベーターに乗ると自宅階を連打する。これをやると毎回和也に「そんなことしても変わんないよ」と言われるが、ついついやってしまう。
到着したエレベーターから飛び出し、玄関に駆け寄りドアを引き開ける。こんな時鍵を指紋認証にしておいて良かったと思う。
「かず!ただいま!かず!」
大声で呼びながらリビングに向かうと、ひょいっと松岡が顔を出した。
「大野、うるせぇよ。ニノ寝てっから静かにしろ!」
智がリビングに入ると、ソファの側に国分の姿。軽く会釈をしてソファの座面が見える側に回り込むと、ハーフブランケットをかけてもらって和也がすやすやと眠っていた。
「おかえり、大野。霊視をお願いしたから疲れちゃったみたいでさ、かれこれ30分位寝てるかな。今んとこ魘されてはないけど」
国分は立ち上がり智にそう言うと、お邪魔しましたと松岡を連れて帰っていった。
智は二人を玄関で見送ると、リビングへ戻った。
霊視をした、というわりには、さほど顔色は悪くない。ということは悪いモノでは無かったのだろう。眠りについて30分ほどということは、いつものパターンであればもう少し眠るだろう。
せっかく出来立てホヤホヤのたい焼きを買ってきたのだが、和也が起きた頃には冷めてるだろう。その時はレンジかトースターで温めることにして、とりあえずべちゃべちゃにならないように袋から出して皿に並べよう。
智は思い出したように手洗いうがいを済ませると、たい焼きを皿に並べ、コーヒーメーカーに残ったコーヒーをカップに注ぐと、それを持って和也の側に腰を落ち着けた。
そして、鞄からスケッチブックと鉛筆を取り出すと、穏やかな表情で眠る和也をスケッチし始めた。