幼き日より、ずっとずっと同じ夢を見ていた。


金に輝く美しき肢体をゆったり横たえた龍の側に、護るように青き龍。そして自分はその二体の龍 の上空を舞う赤い焔を纏った大きな鳥。

金の龍も青き龍も大事なものではあるけれど、それぞれに抱く思いは違う。
大切な友と、愛しい愛しい…………。





届かぬ思いに焦がれて目覚めた朝。
翔は深いため息をついて、体を起こした。

「今生では、かの君に会えるだろうか………」

夢で恋焦がれるあの美しき金の龍、その魂を宿す者を、翔は、いや赤き焔の朱雀は転生する度に探して来た。
けれど、探し出した時には息を引き取ったばかりだったり、逆に自身の命が消えかけるときにあちらの誕生を感じたり。同じ時代を生きる事が叶わなかったり。

朱雀の、金の龍こと黄龍に対する思いの強さが、何度転生しようとも朱雀の記憶を消すことなく受け継ぎ続け、時に自身の心を蝕んだ。

今生でもまた、膨大な過去の魂の記憶を持って生まれ、それこそ幼い頃は苦しんだ。けれど、今生の精神は強く、今はむしろ「朱雀」を受け入れ、記憶とともにその力の欠片も手に入れた。

「俺は、強い。今度こそ、黄龍の横に立つのは朱雀だ。青龍には、渡さん」

その為に

例え竹馬の友と袂を分かつことになろうとも。





花見の宴の席に、何故かいつもはこういう場には姿を現さない友を見つけた。
珍しいな、と思って声をかけに行こうとしたその時、脳天に稲妻が落ちたかのような衝撃を感じた。

「まさかっ、ここにっ……」

覚えのある衝撃に翔は慌てて辺りを見回した。


桜の薄紅の花弁が舞う舞台に上がる山梔子色の着物の舞女。着物をちょんと摘まんでお辞儀をすると、琴や横笛の音に合わせてふわりふわりと舞始めた。


「あぁ、あぁ……」

翔は魂が震えるのを感じた。

彼女が舞う毎に、辺りの気が澄んでゆく。柔らかく暖かな気で満たされて行く。
これが、この世の核を統べる黄龍の、力。

黄龍を手に入れたものは、天下を手に入れることができる。
だからこそ、かの身は常に権力に溺れた輩に狙われる。彼女もそのような状況下に置かれているのだろう。


「俺が、貴女をお救いする。そして、今度こそ………」


翔は強い意思を込めた瞳で桜と戯れるように舞う山梔子の姫を見つめた。


そうして舞が終わる頃、ふっと視線を動かした。


それはどんな運命の戯れなのか。


視線の先に幼馴染の友の顔。少し興奮したように見えるその顔は、自分と同じように山梔子の姫のほうを向いている。


━━気づいたのだろうか。


いや、彼には「記憶」は無いはずだ。ただ単に、美しい舞姫に見惚れているだけだろうか。


「…………無意識、か?やはりあなたたちは魂が引き合うのか?」


友の、大野智の纏う気が変わってゆく。ゆっくり覚醒するその気は、深い深い海とも、高い高い空とも思える青。

「青龍…………。とうとう目覚めてしまったか」


翔は、智を見つめる瞳に一瞬哀しみの色を混ぜたが、すぐにそれを消し去った。
強く赤い焔を瞳に宿し、翔は赤い甲冑を纏う決心をした。