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皆様こんにちは
今回で10話目です
終わりが見えてきたが・・・辛い
今回切り所が難しかったので長めですが・・・
前作はこちら
これからどんどん増えてくので、1話目のリンクだけを貼っていきますことをご了承ください<(_ _)>
タイトルは『シエラの物語』
この物語はある女性の過去世のお話となっています
シエラという女性の人生のほんの一部ではありますが、彼女の人生を共有していただけたら幸いです
それではお楽しみください
処刑
「魔女が処刑されるよ!今日の正午に、魔女が処刑されるよ!」
キリーナの街中を歩いていたシエラはその声を聞くや否やそう叫んでいる少年の腕を掴み
「処刑される魔女の名前は?あなた知ってる?」
と問いただした。
いきなり腕を掴まれた少年は驚いた目でシエラを見て、しどろもどろに答えた。
「な・・・名前なんて知らないよ。でも、ものすごい力の強い魔女だって噂だよ。いつもなら処刑まで数回審問会を繰り返すのにたった1回で処刑が決まったって言ってた」
「力の強い魔女・・・・・」
「腕が痛いよ!離してくれよ!」
「あっ・・・ご、ごめんなさいっ」
シエラが少年の腕を離すと同時に少年は走り出しいなくなってしまった。
「・・・ただいま・・・」
「シエラ、おかえり・・・シエラ?どうしたんだい?何かあったのかい?」
「フローラ・・・レオは?」
「奥の部屋で本を読んでるよ」
「そう・・・」
リリーが異端審問会に連れていかれてから、シエラとレオはアルバの小屋に住むのは危険だということで、キリーナの街にあるフローラの元へ身を寄せている。
シエラは自分の身代わりとなり連れていかれたリリーのことで頭がいっぱいで、何度も審問会に訴えに行こうとしたがその都度フローラに止められていた。リリーがどんな思いで自らの身を差し出したのかをよく考えろと、何度も何度も説得され、結局何もできないまま過ごしていた。
「今、街を歩いていたら・・・今日の正午に魔女の処刑があるって・・・」
「なんだって?処刑?それは・・・リリーなのかい?」
「ううん・・・わからないの・・・。でも、その子が言うにはとても力の強い魔女なんだって。本当なら数回にわたって審問会が開かれるのに、1回で処刑が決まったらしいの」
「力の強い魔女・・・」
「ねえフローラ。嫌な予感がするの。リリーなんじゃないかしら」
「まさか・・・リリーが連れていかれてからまだ1週間も経っていないんだ。さすがにそんなことはないだろう」
「そうかしら・・・」
処刑執行時刻は正午。
正午まではあと1時間程だ。
シエラはしばらく考えていたが何かを決心したようにフローラに
「私、処刑を見に行ってくるわ」
「何だって?シエラ、あんた、大丈夫かい?」
「処刑されるのがリリーなのかそうじゃないのか、確かめたい。なんだかわからないけど、行かなきゃならない。そんな気がするの。辛いことなのはわかってる、でも、ここで逃げたら後悔しかしない気がするから。私は私のために、ううん、リリーのために見届けてくる」
「・・・わかった。レオのことは心配しないで、行っといで」
「ありがとう。レオのこと、よろしくお願いします」
正午よりも少し前にシエラは処刑が執行されるという広場へとやってきた。
さすがに前列で見る勇気は出ないし、もしリリーだったとしたら自分がいることが何かの妨げになる可能性、そして自分が正気を保てる自信がない。なのでシエラは少し後ろの木陰に身を隠すように立っていた。
正午が近づくにつれ、人がたくさん広場へと集まってくる。シエラは両手を組み、リリーじゃありませんようにと強く祈ったがすぐに今日はリリーじゃなかったとしても、1人の女性が処刑されることには違いないのだということに気づき、せめて安らかにその時を迎えられるよう祈った。
広場がざわつき始めた。
誰かが「来たぞー!」と叫んでいるのが聞こえる。
シエラの鼓動が早くなる。目を開けるのが怖い。でも、見届けなければならない。シエラは勇気を出して目を開けた。
広場では魔女と呼ばれる女性が棒に縛り付けられているところだった。
「ああっっ!!リリーっ!」
その女性は間違いなくリリーだった。
シエラは声にならない声を上げその場に崩れ落ちそうになったが、今の自分がやるべき使命を思い出し、両足に力を入れて踏ん張った。
「これより魔女を火あぶりの刑に処す。魔女よ、最後に言い残すことはないか?」
リリーは広場に集まった人たちを見回した。一瞬目の動きが止まり、ふっと微笑み叫んだ。
「あたしは魔女なんかじゃない!あたしはただあたしがやるべきことをやっていただけよ。恥じることなんて何一つしていない。そしてこの道は、あたしが決めたの。自分で選んだの。あたしがこのまま燃えていなくなっても、それは誰のせいでもない。あたしが自分で決めて、自分で選んだだけだから。だからっ」
野次馬たちはみんな息をのんで今にも火あぶりにされそうな女の言葉をじっと聞いている。
「おい、いつまで喋らせるんだ。とっとと火をつけろ!」
1人の審問官が叫ぶと
「最後まで言わせてやれよ!」
「そうだ!最後まで話を聞いてやれ!」と、群衆たちが口々に叫ぶ。
審問官たちは慌てて野次馬たちをなだめ、ようやく静けさを取り戻した時、リリーは溢れ出る涙をグッとこらえて続けた。
「だからっ、自分の人生をちゃんと生きるのよ!悲しみや憎しみは何も生みはしない。あたしはこれでも幸せだったって思ってる。こんな終わり方するとは思わなかったけど・・・でも・・・あたしは恨んでなんかいない。ちゃんと生きて!!いい?わかった?ちゃんと前を見て生きるのよっ!!」
広場に集まった野次馬たちは魔女の最期の言葉を聞き終わったあとも、静かにじっとその時を待っている。
いや、待っているのではない。魔女の思いのこもったその言葉に圧倒され、息をするのも忘れているのだ。
沈黙の時がしばらく続き、ハッと我に返った審問官が処刑の執行を告げる。
リリーの立つ台に火がつけられた。
リリーは目を閉じ、両手を組み、静かに祈りをささげているようだ。その表情はとても穏やかでこれから死を迎えるとは思えない。
広場の野次馬たちは苦痛の声もあげない魔女の最期を何も言わずにジッと見ている。
炎に包まれたリリーが組んでいた両手が力をなくし、だらりと下へ落ちた時、その場にいた誰もが魔女の生の終わりを感じ取った。
まだ炎が燃え盛っている中、何とも言えない表情で野次馬たちはそれぞれの場所へ帰っていく。
審問官たちも燃え尽きるまでは待たず、審問会へと引き上げていき、あんなにたくさんの人たちでうめつくされていた広場にはほとんど人気がなくなった。
広場ではただ、炎が爆ぜるパチパチとした音だけが響いている。
シエラは嗚咽を漏らさないように必死で口に手を当てていたが、とうとうこらえきれずに膝から崩れ落ち、大声で泣き叫んだ。
リリーを最期まで見届けなければならないという強い使命から、その炎が燃え尽きるまでリリーのそばに座り込んでいたシエラ。
涙は枯れることなく溢れ続けている。
やがて炎は燃え尽き、リリーだったはずの黒いものだけが残った。
そろそろ審問官たちが後片付けにやってくる。その前に戻らなければ。シエラは力を振り絞って立ちあがり、止まらない涙をグッとこらえてフローラの家へと歩き出した。
「ただいまー」
「あ!ママだ!ママーおかえりー」
レオが無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。
「レオ・・・ただいま。良い子にしてた?」
「うん!本も読み終わったし、お昼ご飯も残さず食べたよ!」
「そう・・・偉いわ・・・」
「・・・ママ・・・どうしたの?泣いてるの?」
「ううん・・・大丈夫よ。あのね、レオ、フローラおばあちゃんと大事なお話があるから、少しの間奥の部屋で待っててくれる?」
「うん。わかった。大事なお話ね。ボクお薬のお勉強してるね」
そう言ってパタパタと奥の部屋へ走っていくレオの後ろ姿を眺めていると、入れ替わるように奥の部屋からフローラが出てきた。
フローラの顔を見た途端、こらえていた涙が再び溢れ出す。
「やっぱり・・・リリーだったんだね・・・」
「私・・・何もできなくて・・・フローラ・・・リリーが、リリーが、私のせいで・・・っ」
レオに聞こえないように嗚咽をこらえるシエラの背中を、フローラが優しくさすっている。
少し落ち着きを取り戻したシエラは、広場での出来事、そしてリリーの最期の言葉をフローラに話した。
「リリーは強い子だね。」
「リリーの最期の言葉は私に向けての言葉だわ。私のせいで、私の不注意のせいでリリーは火あぶりにされてしまった。それなのに、それなのに・・・」
「リリーの言葉に嘘はないだろうよ。リリーはシエラとレオを守ることを選んだんだ。自分でね。シエラのことはこれっぽっちも恨んじゃいないさ。」
「でもっ」
「シエラ、お前にはレオがいる。お前はこれからレオと2人でしっかりと生きて行かなきゃならないんだ。リリーがお前に託したのは、シエラとレオが自分の人生をしっかりと歩んでいくことだ。生きることなんだよ。」
シエラは目に涙を溜めてフローラを見つめている。
「シエラ、強くおなり。レオと2人でたくさん笑って幸せにおなり。それがお前にできるリリーへの恩返しだよ。」
「そうね・・・泣いてばかりじゃダメね。」
「そうだよ。お前にはレオがいる。そしてレオにはお前がいる。それがどれだけ心強いことか。」
「あら、もう1人、忘れてるわ。私たちにはフローラがいる。そしてフローラにも私たちがいるのよ。」
「ああ・・・そうだったね。3人で力を合わせて生きて行こうじゃないか。」
リリーが残した思いを胸に、シエラは前を向いて生きて行こうと決心した。
続く・・・