昨日は別ブログで、クラナッハ(父)とクラナッハ(子)の「キリストと姦淫の女」の記事をアップした。今日も別ブログでクラナッハ(子)+(父)をアップ。
記事 ルーカス・クラナッハ(父)、ルーカス・クラナッハ(子) キリストと姦淫の女 Cranach I and Cranach II
記事 ルーカス・クラナッハ(子)+(父) Lucas Cranach the Younger +Elder 宗教画と肖像画編
このあとの時代のルーベンスと同じで、そのほかに個人所蔵などがあったりすると、クラナッハの工房作品も含めて、かなり存在するのかなと思わされる。
この作品はルーカス・クラナッハ(父)による「三組の恋人たち」で、右端の「若い男女」に比べ、「老人と若い女」、「若い男と老女」(若い男と女衒)の「不釣合いなカップル」も描かれている。
つまり女を買う男、そして売春婦、紹介者の女衒が揃う売春宿なんだろう。何かの本で15世紀あたりには、すでに娼館に通いつめる男たちが大勢いて、娼婦が階級に応じたマナーや知識を、男の扱いのほかにマダム(女衒)から仕込まれたという。
若い女に目隠しされて喜んでいる老人。売春宿というより少々高級な娼婦が揃った娼館だろうか。なんとなく「ヘラクレスとオンファレ(オムパレ)」の構図に似ている。
この娼婦と老人だけが描かれている「不釣合いな恋人」(不似合いな二人)は、少なくとも40作品はあると思われる。当時の男のステイタスを象徴しているのか、愚かな老いた男を描いているのかは知らないが、娼婦はキリストの時代から延々と現代まで続く「女の職業」だ。
この「アリストテレスとフィリス」の作品を、僕は「不釣合いな恋人」(不釣合いなカップル)に投影してしまった。
クラナッハの親友マルティン・ルターはトマス・アクィナスのアリストテレス主義を批判していた。「アリストテレスとフィリス」は、説話「アリストテレスの馬」からの主題で、絵画ではフィリスと王子、アリストテレスの3人が描かれているが、ここでは王子が来る寸前の場面だろう。
つまりクラナッハはルターのアリストテレス嫌いに、トマス・アクィナスへの批判を、この説話で表現したと思われる。
さて、「不釣合いな恋人」(不釣合いなカップル)が、なぜ「トマス・アクィナスのアリストテレス主義を批判する作品」になるのかというと。
アリストテレスがアレクサンドロス王子(アレキサンダー大王)がフィリスに夢中なのを知り、説教をする。フィリスはアリストテレスを誘惑し、まんまと女の策略にかかり「お馬ごっこ」で馬になる。そこにアレクサンドロス王子がやって来る。
ドイツで13世紀末頃に書かれたアリストテレスのお馬ごっこの話は、権威を屈服させるという説話だが、屈服させた側は正義の勝者であり、屈服させられた側は悪で敗者である。それを「美尊醜卑」であらわしたのが、「不釣合いな恋人」(不釣合いなカップル)ではないかと考えた。
醜い老人は、アリストテレスあるいはトマス・アクィナス(Thomas Aquinas,1225-74) で権威を象徴し、若い女は権威に対抗する象徴。つまり宗教=権威であり、ルターの宗教改革は権威を屈服させる側だ。そう考えるとこの作品に少なからず興味を持つことができるというわけ。
「ロトと二人の娘」(Lot and his Daughters)は、男色家の街「ソドム」から逃げてきた親子。ソドムが崩壊し、子孫が途絶えたことに娘は父親を酩酊させて姦通する。つまり近親相姦だが、老いた男と若い女の作品としてここに紹介する。つまりは「スキャンダルな性」の象徴として、そして「女の策略」と「権威の失落」。
左上から 制作年不明 クリスティーズ(Christie's) / 1528 ウィーン美術史美術館
左下から 1533 アルテ・ピナコテーク / 1528-30 モラヴィア・ギャラリー(ブルノ)
クラナッハの父、子の作品記事リンクは下記から