環は比較的、恋愛に対しては冷静な方だった。
夫に対しても狂おしいほどの愛情を感じることはなかった。
抱きしめられても、夫からの圧力を感じるに過ぎず、手を繋ぐくらいが丁度良いとすら思っていた。
しかし健に対しての想いは、今までのものとは全く違っていた。
キスをしている時は健の想いに力が抜けそうになり、また抱きしめられると肌が吸い付くようだった。肌の相性ってあるのだろうかと、初めて環は思った。
そんな健に抗う事が次第に出来なくなっていった。
想うだけで胸が軽く締め付けられるようになっていった。
ある日の晩、夫がいつものようにうたた寝をし、環がPCの部屋で過ごしていると、健から電話がかかってきた。環が自宅に居る時に掛けてくるのは初めてだった。
「どうしよう…」環は思ったが「でもどうせ夫は寝ているし」と気を取り直して電話に出た。
健は話せた嬉しさでいっぱいの声色だった。
また顔に似合わない、茶目っ気たっぷりの事を言いだしては、環を笑わせようとした。
我慢できず電話口で笑う環。
暫く楽しい話をした後、環が居る部屋の扉を思いっきり開けて誰かが入ってきた。
夫だった。