「海洋天堂」:2010年、香港・中国映画。

 

文句なしに心がホッコリする映画。

自閉症の子どもを抱えたシングルファザーのストーリー。

 

話の内容としては、単なる家族物語とか、ファンタジーというようなトーンではなく、

社会における発達障害者の生き方の方向性を問いかける厳しいものであるが、

自閉症の子どもを1人残して、自分があと数か月でこの世を去らねばならなくなった父親の行動は、発達障害教育に対する大きな手掛かりを与えてくれている。

 

劇中では父親は余命宣告を受けた後、

真剣に、命を懸けて息子に生きる道を見つけようとする。

余命数か月で子どもに残せるものが何か、を必死に追及する父の行動はそのまま、

「子どもに最優先で教える事は何か」

を示唆するものとしても貴重である。

 

そして、自閉症児を導こうとする父親の姿を通じて

生き抜く力というものは、とてもシンプルなものなんだ、という気持ちになる。

真面目にやる、丁寧にやる、コツコツやる、という

人として当たり前のシンプルさこそが

私達にも重要な事かもしれないと思ったりもする。

 

じんわり心に染みる映画である。

 

 

でも、この映画によく似た構造で、さらにこの映画よりも秀逸な日本のドラマが存在している。

それが 草彅剛主演の「僕の歩く道」(2006年ドラマ)だ。

 

これは 海洋天堂よりも無理のない内容であり、

自閉症といわれる人が、どのようにして社会の中で生きていくのかを じっくり見つめている。

海洋天堂では「水族館」が、「僕の歩く道」は「動物園」が、障害者と社会活動の接点として使用されているのも偶然ではないだろう。

 

シンプルな中にこそ、人間存在の真実がある、

そういうメッセージが 自閉症という存在を通じて送り続けられる。

「ありのままの自分でいられる」という言葉も、キーフレーズとして登場するが、これは自閉症者の主人公が話す言葉ではなく、主人公と触れ合う事で、いわゆる健常者と言われる色々な人がつぶやき続ける言葉である。シンプルな真実に向き合った時、人は「ありのまま」にならざるを得ないのかもしれない。

ちなみに、「海洋天堂」と「僕の歩く道」、自閉症を演じる俳優力としては、個人的には 草彅剛の方が圧倒的に素晴らしいと感じている。