四大陸選手権2024は男子が鍵山優真選手、女子が千葉百音選手の優勝という日本人アベック優勝で幕を閉じた。フィギュアスケートは他の競技に比べ決して層が厚いとは言えないと思うのだが、日本では次々とトップ選手が育っている。連盟には思うところもあるのであるが、育成に関しては上手くいっていることは認めざるを得ない。

 

 鍵山選手のSPの曲はイマジン・ドラゴンズの「Believer」。全編通して力強いリズムが特徴的な、何かを打ち破って進んでいく決意を感じられる曲である。北京五輪で使用した「グラディエーター」もそうであるが、鍵山選手には力強い曲がよく似合う。グラディエーターで曲調が変わる後半では明らかにスピードが上がっていて、鍵山選手自身、力強い曲が好きなのではないだろうか。最初のジャンプは4回転サルコー。非常に軸が細く、お手本のようなジャンプで、加点は4.16。鍵山選手の4Tと4Sはまったくもって危なげがなく、完璧。採点に関しては色々物議を醸すフィギュアスケートであるが、鍵山選手に限っては今後も加点が付くのは間違いない。そして圧巻は最後のステップ。ステップを踏み続け、いわゆる「漕ぎ」がないのであるが、ぐんぐん加速していく。ステップも踏むだけではなく、上半身と下半身が異なる動きをしており、慣性や重力を感じさせない。そこにスピードが加わっていくため、難しいことをしているなという理屈が入り込む余地はなく、観ているこちらの感情をどんどん興奮させていく。元々演技構成点の高い選手ではあるが、世界選手権ではさらに上げてくるのではないだろうか。

 

 フリーの曲は一転、ピアノとバイオリンが美しい「Rain, in Your Black Eyes」。徐々にリズムが激しさを増し、雨足強く、最後は嵐の中を駆け抜けていく様が表現されている。最初のジャンプは4回転サルコー。こちらも教科書のようなジャンプで加点は4.43。次は4回転フリップに挑戦。惜しくも着氷が乱れ、GOEは-3.46となってしまったが、今は試合で跳ぶことに意味がある段階だろう。最後のステップも漕ぎのない高難度なものであったが、音楽のリズムが早く、ついていくのに精一杯という印象を受けた。鍵山選手だからあの音楽にあのステップを合わせられるのであるが、まだまだ改善の余地はある。

 

 トータルはただ1人300点越えの307.58点で圧巻の優勝。しかし、特にフリーではまだまだ伸びしろがある。4Fをまとめられたら鍵山選手のジャンプでは当然加点が付くはずで、それだけで7点前後のアップ。演技構成点ももう少し伸ばせるだろう。また、北京五輪では4回転ループも跳んでいたし、セカンドループは今回は封印している。これらをプログラムに組み込むことが出来れば、320~330点を目指せるポテンシャルを持つ選手だと思っている。ジャンプの多彩さではマリニン選手やシャオイムファ選手に分があるが、総合力で十分戦える選手。これからの活躍に目が離せない。