先日来、プロ野球の野村克也監督の本を反復して読んでおります。
野村監督の何がすごいかと言えば、選手としても監督としても超一流で、なおかつ後進まで残していることです。
その実績を簡単に振り返ってみましょう。
・選手時代
戦後初の打撃三冠王
ホームラン王9回
打点王7回
通算本塁打数歴代2位
パリーグMVP5回
・監督時代
南海ホークス時代 リーグ優勝1回
ヤクルトスワローズ時代 リーグ優勝4回、日本一3回
・後進
古田敦也 野球解説者、元ヤクルトスワローズ監督
髙津臣吾 ヤクルトスワローズ監督
石井一久 楽天ゴールデンイーグルス監督
稲葉篤紀 東京オリンピック日本代表監督
他多数。
これだけの実績を残された野村監督ですが、プロに入った当時は南海のテスト入団生の一人で全くの無名選手でした。
そんなキャリアのスタートからこれだけの実績を残す大選手、名監督になるまでのエピソードがふんだんに紹介されているのがこちらの一冊です。
「言葉一つで、人は変わる」
印象に残ったお話をいくつかご紹介したいと思います。
《行き詰まってからが勝負》
プロ入り4年目に初のホームラン王のタイトルを獲得した野村監督ですが、
その翌年、大きなスランプに襲われます。
全くカーブが打てなくなってしまったのです。
野村監督が打席に立つたびに観客席から「カーブの打てない野村!」などとヤジが飛んでくる有様。
カーブ克服のために練習に練習を重ねてはみたものの思うような結果は得られません。
動体視力や反射神経など自身の身体能力に限界を感じた監督はあることを思いつきます。
それは「配球の分析」でした。
つまり、相手投手の配球パターンや投球のクセを分析し、
そのデータを頭に入れて打席に立つようになったのです。
その結果が上述の打撃成績です。
それまでは努力と根性の世界であったプロ野球に、
「データの分析」という新指標を持ち込んで状況を打開したのが野村監督の天才性だと言えるでしょう。
この配球の分析が、後の野村ID野球の基礎となっていきます。
《他責は成長の敵》
選手生活の晩年、野村監督は西武ライオンズで控え捕手としてプレイしていました。
ある日の試合でピッチャーが相手チームにめった打ちされてしまいます。
その試合をベンチで見ていた野村監督は、その日マスクを被っていた正捕手の配球が相手チームから読まれているように感じたそうです。
試合後のロッカールームでその正捕手に配球の根拠を問いただすと、こんな返事が返ってきたそうです。
「ノムさん、投げているのはピッチャーじゃないですか。」
打たれたのはピッチャーのせいであって、自分のせいではない。
起きた問題を自分のこととして引き受ける態度が無い。
このキャッチャーはその後も配球に関して成長することはなかったそうです。
このエピソードをひっくり返すと以下のような教訓が得られます。
失敗したときは人のせいにするのではなく、自分の中に改善点を見いだす機会と考える。
それが成長に繋がる。
《言葉を磨く》
現役生活を終え、プロ野球解説者となった野村監督は、あることに気づきます。
それは自分が野球以外のことにあまりに無知であり言葉を知らない、ということでした。
現役時代であれば自分の身体を使って説明することも出来ましたが、
解説者となった今、言葉を頼りに説明するしかない。
しかし、自分にはその言葉がない。
困った野村監督は人生の師と仰ぐ先生に相談に行きます。
そこで「本を読みなさい」という教えを受けます。
そこで野村監督は野球に限らず、政治、経済、歴史、哲学、文学、科学などあらゆる分野の本を読み、
印象に残った言葉は赤線を引き、ノートに書き写していったそうです。
そしてこの言葉の蓄積が監督としての基礎を築いたと本書の中で述懐しています。
以下一部引用させて頂きます。
“監督は選手たちをまとめ上げ、チームを動かしていかなければならない。
そのとき、選手の心を動かすのは、監督の「言葉」しかないのだ。
説得力を持った言葉、深みのある言葉など、様々な言葉を身につけておくことは、指導者に欠かせない能力である。
またその大いなる助けとなるのが、読書といっていいだろう。”
つまり、「本を読め!言葉を磨け!」ということですね。
繰り返し読んで感じたのは、野村監督は常に観察し、気づき、考えている、ということです。
ご自身が常にその姿勢で野球に臨んでいるので、選手にもプレーの根拠を求め、
無根拠に漫然とプレーしていると分かった際には厳しく叱責したそうです。
この普段からの地道な積み重ねが、冒頭ご紹介したような非凡な結果につながったのでしょう。
ご紹介した以外にも、気づきを与えてくれるもの、耳に痛いもの、様々なエピソードが紹介されています。
私も学習指導に携わる身として、得るものが多々ありました。
誰も真似できない非凡な結果の裏にあるエピソードにぜひ触れてみてください。