前回までの記事では、
スマホを長時間使用する習慣のある子どもは、
日常的にスマホ使用時間が短い子どもと同程度の学習時間と睡眠時間を確保しても、学力検査の成績が悪いこと、
インターネット使用が頻繁な子どもは、そうでない子どもと比較して脳の発達に有意な遅れが出ていること、
スマホやタブレットなどのデジタル機器を用いて学習する際、
本来活動が活発化するべき大脳前頭前野の活動が抑制されていること、
をご紹介しました。
これらの事実から、
スマホを度々使用する子どもは、
その使用によって本来働くべき脳の活動が抑制され、
発達が阻害されているのではないか、
ということが推論される、
ここまでが前回までにご紹介した内容でした。
このように、スマホやタブレットなどのデジタル機器の使用によって、
子どもたちの脳の発達が阻害されている可能性が示唆されるわけですが、
今回はそのようなデジタル機器の負の影響から子どもを守り、
脳の発達を促進する具体的な方法をご紹介したいと思います。
脳内物質にBDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれるものがあります。
BDNFは、脳内の大脳皮質や海馬と呼ばれる場所で合成されるたんぱく質で、以下のような働きがあります。
・神経細胞をダメージから保護する
・神経細胞の新生と成長を促進する
・神経細胞同士のつながりを強化する
つまり脳内で神経細胞同士のネットワークを維持および強化する働きを持つ物質がBDNFなのです。
このようにBDNF は脳の機能を維持するにとどまらず強化してくれる夢のような物質なのですが、
簡単にその生成を促す方法があります。
それは有酸素運動です。
動物実験でマウスに運動をさせると、脳内で盛んにBDNFが合成されることが知られています。
そしてそれと同じ現象が人間の脳内でも起こります。
20~30分程度の軽い有酸素運動をすると、脳内でBDNFの生成量が増え、
その状態が約2週間程度持続することが分かっています。
つまり有酸素運動をすることで、脳の神経細胞のネットワークを守り育てることができるのです。
だから有酸素運動は、デジタル機器の悪影響から脳を守りかつ育てる有効な手段たり得るということです。
脳の神経細胞が成長するわけですから、有酸素運動で記憶力も上がります。
脳内に海馬と呼ばれる部位があります。
海馬は脳内に新しい情報が入ってくると、それが重要か否かを判断し、
不要な情報は廃棄し、必要な情報は大脳皮質に保管する、という情報の選別を行っています。
大脳皮質に保管された情報が、長期記憶として人間の脳内に残ることとなります。
つまり、海馬は記憶生成の中枢を担う部位なのです。
しかし、加齢に伴って海馬の体積は毎年1%ほど減少してしまいます。
だから年齢とともに私たちの記憶力は衰えていくわけです。
しかし、有酸素運動でこの海馬の体積減少を抑制するどころか、増加に転じさせることが出来るのです。
アメリカのエリクソンらが行った2010年の研究では、
120人の高齢者を、
・心拍数の上がる持久系の運動を行うグループ
・ストレッチなどの心拍数の上がらない運動をするグループ
の2グループに分け、1年間運動を行わせました。
その結果、心拍数を上げない運動をしていたグループは平均すると1.4%海馬の体積が減少していたのに対し、
心拍数を上げる持久系運動をしていたグループではその体積が平均2.0%増加していました。
記憶力の良し悪しと海馬の体積は比例するので、
有酸素運動を習慣的に行うことによって記憶力が良くなる、と結論づけることが出来ます。
本日の内容はまとめると、
•有酸素運動で脳の神経細胞のネットワークをダメージから守り成長させることができる
•有酸素運動で記憶の中枢器官である海馬の体積が増加し記憶力がよくなる
ということです。
あと二つ、有酸素運動によって得られるものを書こうとしていたのですが、例によって長くなってしまいましたので、
続きはまた次回とさせて頂きます。