本日は新入生の為のオリエンテーションがあった。
新たな学び舎、出会う友。夢にまで見た輝かしい高校生活が目前に迫り、
ワクワクドキドキと胸を高鳴らす。初々しい限りである。
その純粋無垢なる新入生を籠絡せんと、我先に群がるのは欲望渦巻く在校生たちである。
己が部活に取り込む為には手段を選ばず、良識をわきまえず、美辞麗句を並べ、甘言を吐く。
「これが伝統だ」と言わんばかりに喚き散らすのである。“陋習”を知らぬか。恥を知れ。
いや、喚くだけであればよい。
中には目立たんとすべく、常軌を逸した行動をとる輩も出始めた。
あるものは金属めいた管をこれ見よがしに掲げ、息を吹き込む。
思わず立ち止まってしまいそうだが、物理的視点から見ればただの空気の振動である。
それの何がいいのか。謎は深まる。
あるものは髪切虫の形状の木材を弓のこでやたらめったらこする。
彼らはそれを「バイオリン」と呼んでいた。バイオ、というのだから生物班か何かであろう。
そしてあるものは音楽を大音量で流し、踊っていた。彼らはそれをダンスと称し、
手足を高く振り上げ軽快なステップを踏む。
これは全身の関節に負荷がかかるはずだ。危険極まりない行為である。
彼らの奇怪な行動の数々にも関わらず、辺りには人だかりと称賛の嵐が出来ていた。
どうも我々には理解しえない世界である。
その他、コスプレと称する訳の分らぬ集団、紙資源をばら撒く悪漢、大弓を担ぎ練り歩く和装どもなど、
辺り一面は文化祭のような混沌さを醸し出していた。
我らは“先輩”である。
後輩の憧れとなり、手本となり、目標となる存在であるはずだ。
それが昼間からこのような騒ぎを起こしていては、威厳もあったものではない。
矜持を保て、若人よ。
その点、我ら放送部は大したものである。
常に冷静沈着。周りがお祭り騒ぎにも関わらず、放送室にて腰を落ち着かせていた。
辺りが少し静かになった頃、ふと立ち上がり、あらかじめ用意しておいたビラを片手に歩き出す。
玄関先に着いても、ビラを強引には配らない。
他の生徒は半ば押しつけるように渡していたが、あれでは駄目だ。
新入生は委縮してしまう。
じっくりと待ち、興味を抱いた彼らにそっと、すべらす様に手渡すのである。
焦ってはいけない。
この場面において、その人の心の広さや寛大さが見てとれるのである。
別に、私が人見知りであるとかは決してない。
初々しい顔の新入生相手に慌てふためき、どう話しかけるべきか分からず、戸惑いその場に立ち尽くし、
遂に配る好機を逸したなどということではない。
確かに、同輩の背中に隠れもしたが、あれは、そう、時期を見計らうためである。
勘違いされては困る。
…今年は何人来てくれるかな。