さて前回に引き続き宝塚のミュージカル「うたかたの恋」です。

 

皇太子ルドルフの人物像をだいぶアレンジし、彼と愛人マリー・ヴェッツェラの純愛関係を誇張したり、皇妃エリザベートが息子ルドルフと愛人マリーの関係に理解を示したりと

 

史実を無視したハチャメチャ劇!

 

ではありますが、登場人物はある程度まで史実どおりに再現されています。

 

2013年宙組版を使って主な登場人物の紹介をしてみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

気になるのは最後の「フリードリヒ公爵」という人物です。

劇中ではルドルフの失脚を狙う悪役として登場する大物ですが、「フリードリヒ官房長官」という名の政府高官は実在しません。

そもそも「官房長官」という訳語に相当する職名もこの時代のオーストリア(それどころかヨーロッパ)にはありません。

 

おそらくは軍部の重鎮アルブレヒト大公(1817-1895年)が「フリードリヒ官房長官」という悪役のモデルになったのではないでしょうか。彼はハプスブルク王家の人間ではありますが、ルドルフと対立する立場にあった保守派の陸軍元帥です。

 

ところでミュージカル「うたかたの恋」のオープニングと終盤に設定されているドイツ大使館での舞踏会の場面。これは実際に開催された晩餐会をモチーフにしたシーンです。

 

 

皇妃エリザベートは出席していませんね。劇中では当たり前のように皇帝の隣におりますが・・・

。感受性の強い彼女がもし出席していたら、3日後に迫る悲劇の予兆に気づいたのでしょうか?

 

「うたかたの恋」で重要な役割を担うのが、ルドルフの妻である皇太子妃シュテファニーです。

 

 

 

このように、シュテファニーはその生い立ちが原因だと思われますが性格に癖のある人物です。

しかも夫であるルドルフも変わり者ゆえ、結婚生活は浮き沈みが激しくすぐに破綻してしまいます。

 

こうして家庭では安らぎを得られないルドルフは多数の女性との情事におぼれます。その過程で重い性病にも罹患したといわれています。

 

そんなある日、若き貴公子に恋する一人の少女が現れました。

裕福な男爵家の令嬢マリー・ヴェッツェラです。

 

 

 

 

 

 

ではルドルフとマリーは相思相愛の恋愛関係にあったのでしょうか?

「うたかたの恋」が描いたように、現世で結ばれないことを悟った二人は、永遠の愛を誓い来世をともにすべく心中したのでしょうか?

 

当人たちが死んでしまった以上、二人が残した遺書からその答えを探るしかありません。

 

 

 

 

 

さてみなさんはどのようにお考えになるでしょうか?

「西洋文化史特殊講義」の授業ではこの辺の解釈の仕方についてもお話ししました。

そして授業後のリアクション課題において面白い意見をたくさん出してもらいました。

 

ちなみに心中の後、ルドルフの遺体はウィーンへ運ばれ、葬儀後にカプツィーナの王家納骨堂におさめられます。

一方のマリーの遺体は・・・・

 

 

何ともかわいそうなその後ですね。

 

 

「うたかたの恋」を題材にルドルフの死を考える講義。これは私にとっても初めての試みでした。史実とフィクションのバランスを取りながらいかに授業を面白くするか。そしてどのようにして学生を想像と思考のプロセスへ誘導するか。数週間にわたり悪戦苦闘しながら授業準備を進めました。

 

授業後のコメントでは、宝塚の作品を初めて鑑賞したという声も多く聞きました。

ミュージカル「エリザベート」には出てこないマリー・ヴェッツェラの存在に興味を持った学生も多くいたようです。

 

次回はそのミュージカル「エリザベート」に話題を移し、「女性史」の授業で扱ったルドルフの死を取り上げてみたいと思います。

キーワードは「闇が広がる」と「死の嘆き」です。

 

 

つづく