『精神科薬物療法を語ろう精神科医からみた官能的評価』

著者:神田橋條治,兼本浩祐,熊木徹夫 編

58〜60ページ
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神田橋:(中略)フラッシュバックの治療法を見つけたことが、僕の自慢なんです。四物湯と桂枝加芍薬湯の合方が、フラッシュバックに特効的に効きます





※引用者注——写真の漢方薬(ツムラ)は一例です


水谷:中井久夫先生が先生の漢方薬のことを『こころの科学』に書かれていたのを拝見しました。

神田橋:僕は中井先生にこの間久留米で会ったときに「効くよ」「服(の)みなさい」と言ったんです。僕は中井先生の阪神大震災のフラッシュバックに効くかもしれないと考えて勧めたんですが、先生は「服んだら、高校時代に受けた体験のフラッシュバックがだいぶ軽くなった」と言われました。
 先ほどPTSD治療として紹介した『臨床精神医学』の講演録に出ていますが、ちょっと書いてみましょうか。
 フラッシュバックのある人には(正面顔と横顔を2つ書き、正面顔の額に2本のギザギザを縦に書き)ここにこのような邪気が見えるんですよ。この邪気は横から見ると(横顔のコメカミのあたりに「つ」形のギザギザを書き)、このように見えるんですよ。(中略)これは場所的には、おそらく帯状回でしょう。

 Aさんには四物湯合桂枝加芍薬湯(引用者注四物湯+桂枝加芍薬湯のこと)を3包ずつ、漢方がいやならば、エビリファイ3㎎の2錠かオーラップ1㎎の1錠でもいいと思います。
 中井先生が「フラッシュバックに効く向精神薬はない」と言っておられて、僕もそう思っていたのですが、一所懸命模索していたら、エビリファイとオーラップがいいようです。エビリファイが帯状回の邪気をとります。だから、フラッシュバックを疑ったら、漢方がいやならエビリファイかオーラップを出してみたらいいと思います。
 それからどうしてかわからないけど——これも兼本先生に聞いたらわかるかもしれませんが——脳の障害、てんかんとか知的障害者や広汎性発達障害の人たちは、小さい頃にひどいいじめを受けていることが多いものですから、そういう人たちが、わあっと突然興奮したり暴れだしりしたら、これはフラッシュバックと考えてみることもできると思います。
 そういう人たちに四物湯と桂枝加芍薬湯を出してみると、効く場合もありますけど、あまり効かない場合が結構ありますそういう人たちにはオーラップの1㎎の4分の1錠ないしは2分の1錠(1錠のときもありますが)が効きます。突然わあっと興奮する施設の子どもに出すといいです。
 ただ、ずっと服(の)ませていたら、遅発性ジスキネジーが起こったらいやだな、4分の1錠だったらいいかなと、今、用心しながら出しています。そうした子どもたちにはどうもエビリファイではないようなんですよね。
 オーラップの4分の1錠がちょうどいいみたいで、こんな少しで効くのかなと思うけど、施設の先生たちが「近頃よくなりました」と言われるので効くのでしょうね。


引用者注——フラッシュバックに効く薬の種類や量は年齢や症状によって異なるため、服薬する場合には医師に相談の上、処方されたとおりの種類と量を服薬してください。疑問があれば医師に尋ねましょう。

引用者注——オーラップは2021年に販売中止になりました。