発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第10章 治療・療育の可能性と早期発見
       ——子どもの脳の著しい可塑性

327〜329ページ

【第10章(14)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246(2023/10/11のブログに掲載)、『発達障害の薬物療法』(杉山登志郎)、療育の方法を知りたい方は人間脳の根っこを育てる(栗本啓司)、もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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  (C) 複合効果の効用

 第7章と8章で述べたように、毒性化学物質が二種以上体内に入ることを複合汚染といい、表8-1のように日本人は全員多数の毒性化学物質に汚染されている。
このとき一つ一つの毒性物質は微量でそれだけではあまり影響がなくても、複数だと相加作用、相乗作用がおこり、発ガンなど大きな健康影響がおこることが多いことを述べた。
 複合効果は現在の毒性学の課題であるが、研究は進んでおらず図資料-2のような実験データは、複合毒性効果の可能性のある膨大な組み合せのごく一部で、それ以外の複合毒性はほとんど明らかにされていない。
 一般化学物質にくらべ、薬物については経験的にも複合毒性効果はよく知られており、いわゆる「飲み合わせ」の悪さとして知られている。「Aという薬とBという薬を一緒に服用すると、どうも副作用が出やすい」と医師などが気づき、薬の注意書きに○○という薬と一緒に飲まないよう記載されていることが多い。逆に、二種類の薬物を一緒に飲めば、薬効作用の複合効果が良いことも当然おこるが、あまり強調されていない。市販されている一般の風邪薬のようなものは、症状別に各種の有効な化学物質を一錠のなかにまとめている場合は多い。
 複合効果を十二分に使っているのが漢方薬で、多数の有効成分による通常の幅広い適応、すなわち多種の症状を一度に改善することがある
 また多数の成分の微量投与による微妙な複合効果が「特定の疾患・症状に漢方薬が不思議に効く」の薬理学的な説明であろう。ことに多数の微量成分が効くメカニズムとして、各種の遺伝子発現を微妙に調節し、複合的に目的の治療効果をえている可能性があり、広義のエピジェネティックスを数千年前から利用していた事になる。
「薬はともかく効けば良い。理屈は後からついてくる」といえる(コラム10-2参照)。
 PTSDなどでみられるトラウマのフラッシュバックの治療には、創始者の名から「神田橋処方」と呼ばれる漢方薬がよく効くことも知られている。

※引用者注―神田橋処方とは、鹿児島の精神科医・神田橋條治が発見したフラッシュバックやトラウマに対する処方である。2種類の漢方薬(桂枝加芍薬湯 + 四物湯)がフラッシュバックに効く。詳しくは『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.164〜170、または『神田橋條治の精神科診察室』p.46〜61と巻末資料ⅲ をご覧ください