発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第9章 発達障害の予防はできる
         ——環境要因による増加部分は、原理的に予防可能

279〜281ページ

【第9章(6)】
.....................................................................

※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
......................................................................

 4. 社会として病気や障害の原因である毒性化学物質を予知し規制することの重要性

 明治時代、日本は近代医学を取り入れようと、ドイツや英国に森林太郎(鴎外)や高木兼寛など優秀な医学留学生を派遣したが、それはことに衛生学(今の公衆衛生学・健康学)を学び、病気の原因を解明するためであった。当時の日本人は衛生状態が悪く病気が多かったが、恐れられた病気は主に感染症などただちに死ぬことが多いタイプであった
 現代は各種のガン、花粉症などのアレルギー疾患、それにアルツハイマー病、うつ病などの精神疾患で、一般に遅発性(潜伏期が長い)、慢性的ですぐには死なないものに変わった
 しかし根源的治療法の開発が一筋縄ではいかない困難な疾患が多いのにもかかわらず、肝心の予防法の開発は進んでいない。親や周囲の人・社会を含め、原因のきちんとした解明と対策が遅れているためである。
 感染症は、原因が病原微生物なので予防や治療は比較的簡単だったが、現代社会に蔓延している疾患は、発症の引き金を引く原因がさまざまな環境要因であることは確かなのに、原因が不明か、はっきり人々に周知されておらず、予防が不十分で患者数が近年増加しているものが非常に多い
 自閉症など発達障害も、そのようなタイプの典型的な障害で、増加によって学校教育にトラブルが多くなってからようやく社会問題となっている。
 これは原因物質があるとしても広い環境全体に放出されており、まわりまわって食品や大気中などに含まれていても摂取したことには気づかず、しかもすぐには発症しないので、親や周囲の人を含む個人レベルでは、「何が原因だか」わからないためである。
 このような環境からの毒性化学物質が原因でおこる「環境病」で、初期から疑われた原因が周知されず、予防対策が徹底的に遅れ、胎児性をふくむ特殊な神経疾患の急増として世界的にも有名になってしまったものに、水俣病がある。
 一九五六年の「原因がわからない奇病」として報告されたころからの水俣病の歴史を振り返り何がおこり、 どのように社会が対応し、予防の著しい手遅れからどのように患者数が増えてしまったのか、簡単に述べる(『水俣病50年』西日本新聞社、二〇〇六参照)。