発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第7章 発達障害の毒性学と発症の分子メカニズム
 ——遺伝的なシナプスの脆弱性と発達神経毒性化学物質の種類と感受性期、曝露濃度

219〜220ページ

【第7章(10)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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    (D) ADHD、《学習障害》の原因ともなる鉛化合物
 鉛中毒は、人類が鉛を採掘し、鉛をふくむ製品を製造、使用しはじめた頃からおこり、生殖毒性、神経毒性が知られていた。歴史的に有名なのは、鉛を含んだワインの多飲による貴族階級の少子化や脳の異常が「ローマ帝国の滅亡」の最大の要因となったという説である(9章のコラム9-3)。現代になると、子どもの玩具や壁のペンキからの鉛化合物や、自動車の排気ガスからの四エチル鉛の神経毒性が問題になっている。有機鉛化合物は有機水銀と同様、細胞膜を通過しやすく神経細胞に侵入するので、神経毒性が強い
 長期間の比較的多量の曝露による慢性中毒では、主に各種の不妊など生殖系の異常、消化器症状、神経症状、一部では貧血がおこる。マクロな神経病理的には、脳の水腫、大脳皮質の軟化、脳組織の海綿状変化、虚血性神経細胞死などが確認される。
 鉛や水銀より重く広汎な障害・症状をおこすのは、PCB類や有機リン系農薬の作用部位が甲状腺ホルモン系やアセチルコリン系などに、ほほ限られ特異性があるのに対し、鉛などの重金属では、水銀のところで述べたように、その毒性の作用部位が非常に多様で数が多いためである。
 小児期の子どもへの鉛曝露の健康影響としては、鉛の血中濃度が約15μg/100㎖で注意持続時間や記憶力の低下、《学習障害》をおこす知能指数(IQ)の低下が見られる。これまで化学物質による発達障害の発症の可能性が認識されていなかったのであまり指摘されていないが、《学習障害》ばかりでなく、鉛中毒による注意持続時間の低下は、ADHD(注意欠如多動性障害)ことに注意欠如型の発症の原因になりうる