発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第5章 発症メカニズムは「特定の神経回路のシナプス形成・維持の異常」
         ——発症しやすさを決める遺伝子背景と引き金を引く環境要因

133〜136頁

【第5章(6)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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 データベースによるが、二〇一三年の時点で最大の「Autism KB」にはすでに関連遺伝子として三〇七五遺伝子が枚挙され、そのうち九九遺伝子が症候性、一〇九遺伝子が非症候性の自閉症関連遺伝子として信頼できる証拠をともなっていると判定されている。一方 Sfariデータベースでは、自閉症関連遺伝子は二〇一三年十二月末に五八八の遺伝子があげられている。
 表5-1にその主なものの一部を掲げた。もちろん、これらの遺伝子の自閉症との関連性の強さは遺伝子によってさまざまで、臨床症状との相関性が比較的高いものから、かろうじて候補と主張する論文があるだけのものまでふくんでいる。しかも今後も、さらに多くのさまざまな機能をもつ遺伝子が追加されると思われる

 表5-2には、ADHDの関連遺伝子をあげた。ADHD gene データベースによると、二九五遺伝子が枚挙された。これらの遺伝子にも症状との関連性がさまざまなものが含まれるが、そのうち二四遺伝子を症状との関係が強いホットジーン(hot gene)としている
 今後さらに追加されることは自閉症関連遺伝子と同じである。もともとADHDはリタリン類など症状を改善する薬が使用されている歴史があり、単純にドーパミン輸送タンパク質など神経伝達物質関連が注目されていたので、そのような遺伝子が多い
 しかし興味深いことに、抑制のきかない多動性・衝動性を示すのがADHDの症状なので、GABAやグリシンなど一般に抑制性の神経伝達物質の異常と考えてもよいはずなのだが、GABA系やグリシン系の遺伝子は一つも挙げられていない。
 元来「覚せい剤」(興奮剤)であるリタリン系の薬物が多動の抑制に効くのは、抑制系をさらに高次に抑制しているカテコール・アミン系の神経回路のシナプスでのドーパミンなどの再吸収の異常が症状の原因であると推測できる
 また同じ「シナプス症」であるADHDと一部併存する場合のある自閉症の関連遺伝子と重なるものも多く、今後さらに増えるのではないかと思われる。LDの関連遺伝子もいずれ研究が進むであろう。