『発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第4章 原因は遺伝要因より環境要因が強い
         ——自閉症原因研究の流れとDOHaD
121〜123頁

【第4章(13)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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 (2) 自閉症、統合失調症、うつ病の類似部分としてのDOHaD
 自閉症と統合失調症は、一九世紀末の精神医学の大家クレペリンの著述にさかのほるほど、歴史的に関係は入り組んでおり、さまざまな議論をよんできた。
 そもそもカナーが自閉症を報告したのは、クレペリンが記載した小児発症の統合失調症を探した結果であり、もともと「自閉」という概念は、統合失調症の陰性症状を示す言葉だった。
 現在の自閉症と統合失調症、さらに発達障害に併発することの多いうつ病の臨床像の複雑な関係と実態については、杉山登志郎『発達障害のいま』に子どもたちの症例など詳しいので参照されたい。
 言うまでもないが、微妙な重なりはあるものの自閉症と統合失調症、うつ病は症状のパターンや顕在化期などが違い、基本的に独立した疾患であるしかし統合失調症の発症メカニズムの研究が近年進み、胎児期、幼児期の神経細胞の発達、ことにシナプス形成などに異常があり、それが思春期、成年期以後の陽性症状、陰性症状として顕在化するらしい証拠が多くなった。統合失調症も原因が発達期にあると決まれば、DOHaDの概念にあてはまる。
 さらにこの本のように、自閉症が高次機能にかかわる神経回路の形成異常、すなわち局所回路を結ぶ長い軸索先端など脆弱性の高いシナプスの形成維持の異常(5章に詳述)とすれば、同じ高次機能の障害である統合失調症も同じように考えられ、違うのは「脳内のどの機能神経回路のシナプスが異常であるか」だけである。うつ病や双極性障害もあまり指摘はされていないが小児期の発症もあり、少なくとも一部は胎児期・幼児期にもともと脳の異常がある可能性が高く、DOHaDと考えられる。
 環境の影響は統合失調症やうつ病でも大きい。統合失調症で胎児期・周産期におこる脳の発達の異常にも、原因としてさまざまな環境要因があげられており、ほぼ自閉症、ADHDなどと同様に、胎内での化学物質環境や出産前後のトラブル、ウイルス感染などがある。しかも思春期以降の本当の症状の顕在化には、しばしば強い精神的ストレス、疲労など社会生活上の環境要因が引き金になることが知られている。新規の突然変異は統合失調症の原因でもある。
 この発症の引き金となる生活環境要因ということでは、さまざまなタイプのうつ病、双極性障害ではさらに影響が大きく重要で、精神科医の治療法のうち、ことに精神療法が有用な根拠になっている。「本人の現在や過去の生活環境とのあつれきをいかに解決するか」が肝心と言われている。
 自閉症など発達障害でも、発症後の幼児期、少年期の生活環境は重要で、環境が本人にとって悪いと、二次障害、三次障害をおこし症状が複雑に悪化した難治症例は非常に多い発達障害児の脳も周りの環境のさまざまな影響を受けながら、発達・変化し続ける。日本では過去数十年、早期発見、療育の普及・対応が遅れ、放置された人が多いために、「大人の発達障害」として社会問題になっていることは、ようやく一般にも知られるようになった。


※引用者注この本の第4章(98ページ)によると「DOHaD」(ドーハッド)とは、日本DOHaD研究会によれば「Developmental Origins of Health and Disease の略で、胎芽期・胎生期から出生後の発達期における種々の環境因子が、成長後の健康や種々の疾病の発症リスクに影響を及ぼすという概念。このブログの第4章(1)を参照。