『発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第3章 日米欧における発達障害の増加
        ——疫学調査の困難さと総合的判断
68〜69ページ

【第3章(1)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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第3章 日米欧における発達障害の増加
        ——疫学調査の困難さと総合的判断

 日本や韓国で自閉症と診断される子どもの数の増加は著しく、二〇一二年までの報告では、その有病率は単純なデータ比較で日本は世界第二位、韓国が世界第一位である米国、英国などでもそれほどではないが、増加している(8章二四二頁、図8-1)。

 自閉症だけでなく、ADHDなど自閉症以外の発達障害の診断数も増加しているようだが、疫学調査が行われているのは自閉症が多い。
 ただでさえ時間と労力を要する疫学調査のうちでも、自閉症など発達障害の疫学では、有病率の増加には十分すぎるほどのデータがある。
 発生率の年を追った増加、(コラム3-1:有病率と発生率、参照)を示すデータを得るには困難が多いが、カリフォルニア州の自閉症児登録データから、実数の増加を議論できるようになっ た。さらに、第4章で詳しく述べる環境要因による新たな発症の増加を示す疫学論文やその因果関係をしめす実験動物などの毒性学実験のデータが明らかになり、より総合的な立場から、最近ようやく増加の全体像がはっきりしつつある

【コラム3-1】
  有病率と発生率
 集団における疾病発生を表す疫学用語に、有病率(prevalence)と発生率(incidence)がある。
 有病率は一時点における患者・症例数の単位人口に対する割合で、単位人口一〇万人当たりであらわすことが多い。
 発生率が観察期間を考慮に入れた指標であるのに対して、有病率はある一時点での疾病の頻度を示す。有病率は、有病期間が長く致死性が低い慢性疾患の現状の把握に適しているので、自閉症など発達障害で良く研究されている。
 発生率は、特定の期間内に集団に新たに生じた患者数を割合として示すもので、罹患率ともいい、通常、一定の人数を一定期間追跡して見いだされた新しい患者・症例数を、人数✗期間を分母として表わす(例えば、一万人当たり1年間に新たに発生したガンの患者・症例数)。
 「新たに発生した」という制約があるので、有病率と異なり、発生率は病気にかかっている期間や致死性かどうかで影響を受けないそのため、有害環境因子への曝露などの危険因子、あるいは予防対策によって、疾病の発生率に影響があるかどうか、原因を調べるのに適している(コラム3-2、「疫学調査の重要さ、困難さと限界」も必ず参照)。