『発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第2章 症状の多様性と診断のむずかしさ
——個性との連続と診断基準の問題点
65〜67頁

【第2章(12)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、『栄養素のチカラ』(William J. Walsh)、『心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246 、療育の方法を知りたい方は『もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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7. 発達障害・診断基準の問題点

 確かにDSMなどによって、研究者、専門家同士は一定の診断基準で統計がとれ、研究しやすくなることは事実である。しかし、子どもたちのことを考えると、二つの問題点がある
 第一に、診断された子の問題である。その子の治療・療育を考えるとき、DSM-5の場合自閉症スペクトラム障害という広く連続した病態をしめす診断名だけでは、困ることがあるDSM-Ⅳ-TRではあった、重症度に従い自閉性障害、アスペルガー 障害、特定されない広汎性発達障害(PDD-NOS)の順につづく下位分類がなくなったので、その子の特性「どのような子なのか。スペクトラムのどの位置に居るのか」という重要な情報は診断名だけでは分からなくなったのである。

 経験を積んだ専門医は、診断名にこだわらず、その子の細かな特性を見抜いて、その子にあった治療・療育法を選択・指示するようである。しかし本当の専門医が少ない現状では、診断名はつけたが、その子の特性の情報がつたわらずに学校や養育にまわされ、合っていない教育指導、治療・療育法が行われてしまうケースが憂慮される。もちろん、DSM-5ではそのために、支援の必要度を細目ごとに決めることになっているので、教育支援・療育する側が、この細目ごとの重症度の情報を診断医から求めそれを活用することが期待される
 第二に診断されなかった子どもの問題である。ボーダーラインにいる子どもたちにとって重要な問題で、早期発見システムを精力的に立ちあげている神尾陽子が次のように指摘している(【 】内を文献42より引用)。

 【診断基準に合致しない人々は、本当に臨床的なニーズはもっていないのか?】
 【自閉症スペクトラムの診断基準が本質的に恣意的なものにならざるを得ない以上、どうしても境界問題は生じます。そこで最近、しばしば言及されるのは、診断閾値下(sub-threshold)という状態です。】
 たとえば社会的コミュニケーションの項目では、診断基準に合致するが、常同反復的な行動パターンの項目では、軽度か、ほとんどないケースは、DSM-5では新たにできた「コミュニケーション障害」に当てはまるかもしれない。しかし図2-3のように、二重線の非ASDのグループは、実際なにかの症状に困って臨床医を訪れたグループで、DSM-Ⅳ-TRで自閉症の診断基準には当てはまらなかったが、それ以外の診断名をもっている子どもたちが数多くいる。そしてその子もSRSの値が示すように自閉症的な行動要素が多少なりとも見られる

 【つまり不登校や引きこもり、あるいは不安やうつ等の一般的な精神症状が大きな問題であったとしても、幼児期からの発達歴を遊びや興味、対人関係、生活習慣などを中心に丁寧に聴取していくと、発達障害と診断するほど顕著ではないものの、類似の特性が垣間見えることは少なくありません。幼児期から親は不安を覚え、また集団内では気になる子として周囲も気にかけ、何よりも本人が自信を失い、適応に苦しんでいるケースは少なくないのではないかと推測します。】
 脳神経科学からの視点では、「異常部位がシナプス・レベルであるが故の症状の多様さから言って、診断閾値下のグループは当然生じるし、症状は確かにスペクトラム状に連続するはずだ」といったことしか書けないが、このような子どもたちをどうするかは、発達障害支援法でも積み残した社会的課題であろう。