理趣経/見ることの快楽 | 歴史エッセイ集「今昔玉手箱」

歴史エッセイ集「今昔玉手箱」

本格的歴史エンターテイメント・エッセイ集。深くて渋い歴史的エピソード満載!! 意外性のショットガン!!

「見清浄句是菩薩位」


 見とは文字通りLOOKING。異性の体を
見たいと思うのは自然なことであると
いう意味だ。特に男の性欲は、まず
見ることによって呼び覚まされる。
幼少期のお医者さんごっこやスカート
めくりに始まり、隠されたものを
「見たい」という欲望は尽きること
なく続く。週刊誌で袋とじにされると、
よけい見たくなる心理は、好奇心を
呼び覚ます作戦なんだろうね。


 ケータイなどで女性のスカートの
中を盗撮して捕まり、懲戒免職に
なったというニュースは後を絶たない。
そこまでしてでも見たいという欲求が
抑えられない。その気持ちはよく
わかる。社会的に禁止されていて、
バレると犯罪として罰を受ける行為
ほど、魅力的なのだろう。危険と隣り
合わせのドキドキ感に興奮するんだろ
うね。


 雑誌のヌード写真やAVなどは、たい
ていの場合、男の「見たい」欲望を
満足させるための産業として成立して
いる。そしてたいていの場合、ただ
「見たい」のであって、対象の女性に
ディープな恋心を抱くことはない。
大体1~2度見れば満足する。すると
知らぬ間に部屋の中で束になったり
する。そんな彼氏の部屋を訪れ、隠し
てあったDVDや写真集を見つけ

「この浮気者。変態。汚らわしい」

などと激怒し、全てを捨て去る女性が
いる。こういうタイプの女性は、彼氏
のメールチェックも欠かさず、彼氏を
監視し、独占しようとする。だが自分
は彼氏から束縛されたくないと主張
する。だが自分の監視から彼が逃げ
出すのではないかという不安も強烈
なのだ。当然彼氏は息苦しい束縛から
逃れようとし、彼女は「見捨てないで」
とストーカーに変貌する。独占欲は
わかるが、ほどほどにしないと殺し
合いに発展するのが、男と女の仕方
ないところである。


 異性の全裸姿を堂々と見つめ続け
られる空間がある。美術のヌード
デッサンの教室である。自然光か
蛍光灯の光の中で見る裸体のせいか、
あまり興奮はしないが、男の見たい
欲求を満たす、独特の充足感はある。
最初は骨や筋肉の動きをとらえ、
頭や胴体、手足の固まりをラフに描く
が、やがて肌と光の関係を見つめ
始める。すると鉛筆のタッチも肌を
愛撫するような柔らかさに変わって
いく。


「どうだい、この丸いお尻は綺麗
だろう」などと語ったのは、女性
ヌードの巨匠、ルノアール。彼の絵筆
はモデルの肌を愛撫するタッチで
描かれている。モジリアニはもう一歩
モデルに踏み込み、モデルに恋する
自身の快楽と煩悶、モデルの肉体から
にじみ出る生命力や深い愛情を描き
出そうとした画家だった。