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急性期治療の構造―3つの段階
急性期入院治療は,通常,なだらかに進行はしない。
いくつかの節目があり,それまでに達成すべき課題(タスク)が患者にもスタッフにもある。
これを達成してから前に進まないと院内再発を招き,在院期間がいたずらに長引く。
患者が重症の病態から回復して退院に到達するまでには,通常2つの節目で分割される3つの段階(ステージ)ないし相(フェーズ)がある。
1)第1段階(狭義の急性期,混乱期)
(1)病 態
内面的には,自我境界が損傷し,安全な時空が失われている。
外面的には,睡眠・摂食・排泄という基本的な生存機能が崩壊しており,自己防衛のための合目的的な行動がとれない。
疲弊しているにもかかわらず,交感神経系優位の臨戦態勢が解除できない。
(2)治療課題
睡眠の確保。身体合併症・事故の予防,安全・安心感の保障。
(3)治療戦術
病室は,自我境界の損傷を代償する安全で快適な隔離室(保護室),あるいはそれに準じた個室が基本。
鎮静系の抗精神病薬を就寝前に重点投薬し, 睡眠の確保を図る。
薬物療法の効果がなく,生命的危険を伴うケースには電気けいれん療法も検討。
精神療法的アプローチとしては,医師・看護師による心身一体的な密着的ケアで安全感を保障することが最重要。
(4)目標期間
2週間以内。
(5)次の段階に進む目安 夜間8時間以上継続して睡眠がとれること。
確認のために,微細な経日変化が読み取れる睡眠表が必要。
2)第2段階(臨界期,休息期,回復前期)
(1)病 態
悪夢のような第1期を離脱し,副交感神経系優位の休息モードへ。
外面的にはよく眠り,甘いものを中心によく食べる。
スタッフには友好的に接するが,疲れやすく壊れやすい。
自我境界が修復しかかった敏感・脆弱期。
(2)治療課題
セルフケアの自立と医療の受容。
(3)治療戦術
刺激を避け,1人で休める個室が必要。
抗精神病薬の減量は慎重に。
入院に至った「苦労話」を細部にこだわりつつ,患者とともに再構成する作業が重要。
(4)目標期間
2週間以内。
(5)次の段階に進む目安 介助なしで入浴が可能になること。他の患者と雑談ができること。
3)第3段階(回復期,回復後期)
(1)病 態
日常的現実感が再構築されるとともに社会生活上の懸案事項が再浮上。
外出や外泊によって微小再燃を生じやすい。
(2)治療課題
在宅ケアの条件整備
(3)治療戦術
病室は対人交流のある多床室が基本であるが,ケースによっては個室を要する。
薬物療法は SDM(shared decision making;協働意思決定)を目指し,退院後の服薬中断をできるだけ減らすために,在宅での生活スタイルを想定して服薬回数の減や剤形の調整を行う。
ケースによっては,持効性注射薬の選択も考慮。
心理教育,作業療法などを活用。
病院内外の多職種でサポート部隊を編成し,利用可能な制度や社会資源にアクセス。
「再生の物語」をつくり出す。
(4)目標期間
4週間以内。
(5)次の段階に進む目安 退院後の社会生活に関する不安や課題が語れることが望ましい。
クリティカル・パス
クリティカル・パスは,本来の用語がクリティカル・パスウェイ(critical pathway)であり,クリティカルな(生死を分ける)道筋を指し,所定の時間内に治療目標に到達するための最適な手順を意味する。
クリティカル・パスの意義
クリティカル・パスは,各ステージにおけるスタッフのタスクを列挙し, 達成度を機械的にチェックするための一覧表ではない。
一定の時間内に一定のタスクを達成するという治療者側の決意表明であり,達成できなかったと きに治療方針の再検討に用いる参考資料である。
表:急性期精神病治療の三拍子
参考文献:精神科救急医療ガイドライン
https://utsunaoru.site
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