君が好き。そう気づいたのはいつだったかな・・・。

三年間続けてきた部活を引退した日、僕は寂しさと嬉しさと両方感じた。けど・・・同じ部活だった君とこんなにも会えなくなるなんて夢にも思わなかった。

 

「涼介はどこに高校行くの?」

受験生として本格的に勉強を始めた9月、親友の谷口が言った。

「俺は南高校かな。」

「南高校かぁ・・・。また陸上部入るの?」

「・・・多分。」

「そっか。あぁ、そういえば小山も南高行くって言ってたなぁ・・・。」

谷口はそっとそう呟いた。

俺はその事を聞いた瞬間、自分でもびっくりするくらいに、喜びが湧き上がってきたのを感じた。

「・・・えっ?それマジ?」

「おん。俺、今小山と席、隣だから。」

「そうなんだ・・・。」

 

小山優菜とは、同じ陸上部で、いつも一緒だった。

けど、陸上部の男女が特に仲が良いという事はなく、ただ部活で会うだけの仲間。一緒に走り、大会に行き、用事があれば話すけど、それ以上は特に何もなく・・・。

俺も部活を引退するまで小山の事を特に意識をしていなかった。

けれど、部活を引退して、小山に会えなくなって、ふと学校で小山を探して自分に気が付いたのは最近だった。

廊下でたまたま小山を見かけると、何故か嬉しくて、胸がざわついた。

本当に何故か嬉しさが込み上げてくる。会えない日は少し寂しかった。

あんなにも毎日会っていたのに・・・。あの頃に戻れたなら・・・。何度そう思っただろう。

だからビックリした。小山が同じ高校を受けるなんて・・・。

誰にも知られる事なく、この恋は終わると思っていた。

けど・・・もしかしたら、まだ可能性があるかもしれない。

そう思ったら・・・俺は受験、絶対に頑張ろうと思った。そして、受験が終わったら、小山に告白しよう。そう決めた。

 

 

「やったぁ~!」

合格発表の日、俺はネットの前で大きな声を上げた。

先生からは厳しいと言われていた南高校に無事合格した。

これで、小山も受かっていればまた同じ学校だ。頑張って良かった。報われて本当に良かった。

俺は一息つくと、小山の事を思った。

あれから秋が来て・・・冬が来て・・・小山の事は廊下で見かける程度だった。

喋る事もなく、ラインを知らない。

それでも俺は彼女の事を探し続けていた。ただ会いたくて、それだけだった。会えた日はそれだけで嬉しかったし、本当に心が喜びで満たされた。

この想いを・・・こんなにもすごい気持ちを伝えないなんて・・・絶対に出来ない。だから、伝えよう。例え振られても・・・。頑張るんだ。

 

 

「小山・・・あのさ・・・。」

俺は卒業式、目を血眼にして、小山を探した。

 

皆とわいわいと写真を撮っている小山を見つけると、勇気を振り絞って声を掛けた。

「涼介君。何?」

「あのさ・・・明日の夜、六時に中央公園のベンチに来て欲しいんだけど・・・。」

「えっ・・・?」

「待っている。」

俺は足早にそう言うと、逃げるようにその場を去って行った。

 

 

言った・・・。言った。ついに気持ちを伝える機会が来たんだ・・・。あぁ・・・どうしよう。上手く言えるかな・・・。

小山は来てくれるかな・・・。あぁ・・・でも頑張った。俺、頑張った・・・。

 

 

 

「・・・涼介君?」

翌日の六時。中央公園のベンチに小山は約束通り来てくれた。

「おう!」

俺はパーカー姿で普通を装って、手を振った。

本当は緊張でガチガチだった。

「・・・なんか、話すの久しぶりだよね。」

「うん。あぁ・・・座る?」

俺はベンチの端に寄って、小山に言った。

「うん・・・。」

小山はカーディガンにスカート姿で、そっとベンチに座った。

まだ薄暗い空にはキラキラと一番星だけが光っていた。

「・・・もう卒業とか早いよね。」

小山は俺が気まづくならないように、会話を探してくれた。

「おん。本当それな。」

「何か・・・皆で走っていた頃とか、懐かしいよね。楽しかったね。陸上部。」

「うん、俺さ、部活辞めた後、体が変な感じで・・・何ていうの?ずっと走っていたから、走っていないと落ち着かないって言うか。」

「分かる、分かる。何度、部活に顔出そうかと思ったもん。」

「だよな。走りたくなるよな。」

「うん。」

俺達は世間話のように、そんな会話を交わすと、小さい沈黙が出来た。

そろそろ・・・言わなくちゃ。ちゃんと来てくれた小山に誠意を見せる為にも。

「あのさ・・・俺、部活辞めて気が付いたんだよね。」

「・・・うん。」

「小山が好きです。引退してから、会えなくなって、ずっと探していた。小山の事。」

「・・・うん。」

「小山が俺の事、何とも思っていないって分かっているけど、ちゃんと伝えたくて。」

俺は苦笑いしながら言った。

「・・・同じ・・・。」

「・・・えっ?」

「私も同じ・・・。引退してから、涼介君に会えなくなって、涼介君の事探していた。」

「・・・えっ?ちょ・・・マジで?」

「・・・うん。涼介君が南高校受けるって、友達に聞いて・・・。同じ高校選んだ。」

「・・・マジで?」

「・・・マジです。私も涼介君の事、好きです。」 

小山ははにかんだ可愛い笑顔でそう言った。

「ちょっと・・・待って、マジで、今夢みたいなんだけど・・・。」

「私も・・・昨日、呼び出されて、ずっと嬉しくて、やばかった。ずっと叫びたいほど、嬉しかった。今日、告白されたら絶対に受けようって思ってた。こんな奇跡が起きるなんて、まだ信じられない。」

小山は嬉しそうにでも、少し泣きそうに言った。

「・・・絶対に大事にする。」

俺はそんな小山を見て、胸が苦しくなって、そう言った。

「・・・よろしくお願いします。」

小山は涙目で笑いながらそう言った。

 

 

三年間、ずっとそばにいたのに、離れて気が付く気持ちなんて・・・笑っちゃうけど、この想いが叶って良かった。

もう・・・これからは君に会いたい時に会えるんだ・・・。そう思ったら・・・俺も泣きそうになった。

大好きな大好きな小山・・・。これからもその笑顔を一番そばで見られるなんて、本当に奇跡みたいだ・・・。

この気持ち・・・伝えて良かった。頑張って本当に良かった。

勇気を出して、手に入れた大切なもの。絶対にこの先も守っていこう。

きっと二人なら、楽しい未来が待っていると信じる事が出来るから。

 

終わり