愛犬、玄米が玄関に向かって大きな声で吠えている。
様子を見に出た家人は、「ひゃあ」といいながら、
落ち葉で汚れた茶色の保冷バッグを不機嫌そうに持って入ってきた。
東京へ帰る準備のためにトランクに詰め込んだ保冷バッグの中身が消えている。
「雨だからね、さすがにカラスも来ないと思ったんだけど」とは家人の弁。
雨が降ってきたので、ガレージを開けたままにしておいたのを、
一羽のカラスが狙ったようだ。
道中食べようと楽しみにしていた好物が見事に消えてしまった。
保冷バッグの中身はなんと、
家人が楽しみにしていたチョココロネひとつ。
シティベーカリーの焼きたてのフォカッチャ一切れ。
スーパーでやっと見つけた紀文の大きなあんまん一袋。
そしてそして、
麻布十番までわざわざ買いに行った豆源の未開封のイカピー。
極めつけはパック入りのパイナップル。
カラスのデザート付きフルコースの後に残ったのは、
むなしく捨て去られた空き袋とがっかりする人間ふたりでした。
おいしかったでしょ、きっと。
そんなグルメになっちゃ、冬は越せないよ。
ブツブツ、ブツブツ。
食い物の恨みは恐ろしいからね。
ふっと、お向かえさんのお庭をみると、
大きなくちばしの太った一羽のカラスが
出発する私たちをじっと見ている。
「ありがとう、おいしかったよ」といっているのか、
「また狙うからね」と仁義を切っているのか。
グルメになったカラスとの
闘いはしばらく続きそうだ。