▼ 認知療法
誇張した思考を抑えることは重要だと考えている痛み専門家の多くは、患者に認知行動療法を紹介します。これは、うつ病や摂食障害、心的外傷後ストレス症候群の治療によく用いられています。
◎ 認知療法
例:不安感や不快感を抱いたときの状況や自分の行動、とっさに浮かんだ考え(自動思考)を記録する。そのことで、自分に何が起きているのかを考える。
欠点: 体調や気持ちが落ち込み過ぎているときに実行するのは難しい。結果が出るまで時間がかかり過ぎる。このため、途中で辞めてしまう。
認知行動療法は、痛みにはそれほど役に立たないとの研究結果があります。
▼ 医師は患者との時間をもっと作るべき
別のアプローチとして、医師はもっと時間をかけて患者といっしょに痛みの頻度や重症度について話すということです。
このことは、ある小児科医師が鎌状赤血球症の子どもたちが、痛みを極端に表現するのを日常的に聞いてきたことで気がつきました。
◎ 鎌状赤血球症
血液の病気で生後5か月ぐらいから現れ始める。手足に痛みと腫れが現れ、貧血症になる。現在、治療法はまだみつかっていない。
「子どもたちは、今までで一番ひどい痛みだとか、痛みがずっと続いているというのです。でも、わたしがもう少し質問をすると、バランスの取れた答えが返ってくるようになります。
これは例えば、以前はもっと痛みがひどかったことや、過去の痛みがもう消えたことに気づくのです。」
「わたしは、患者の痛みの程度を1から10の尺度で評価するように医師に求めるだけでなく、もっと詳しく調べるように勧めています。」
「患者は、自分の状態をより正確に捉えられるようになります。医師にとっても、きちんと調べないと、患者に対しフラストレーションを感じてしまい、適切に治療できない可能性があります。」
▼ 疼痛破局的思考尺度
痛みの思考尺度を日常的な診断項目に含めることも有益です。
「医療現場では、うつ病や不安神経症患者に対し質問検査が実施されています。ですが、痛みがどれほどに誇張されているのかの検査については、あまり行われていません」
▼ 自分自身に送り続けている「危険メッセージ」から意識をそらす
◎ ドクター ヨニ・アッシャール
痛み治療のスペシャリストで、今回紹介している慢性の腰痛に対し薬を使わず治療するプログラムの治験について2021年に論文を発表し、研修生特別賞を受賞しています。若い!
痛み改良プログラムで有名なマサチューセッツ州の治療センタープログラムでは、患者自身が、日常的に自分自身に送り続けている「危険メッセージ」から意識をそらすことを目指し、医師、心理学者、理学療法士、作業療法士、その他の専門家がチームを組んで治療に当たっています。
「危険メッセージ」とは、「不安な感じで体を動かしたとき、さらに体を痛めたり、激しい痛みを感知たりする恐れ」に関するものが多くなっています。
医師の説明:「『痛み』と『害』の違いを理解してもらうのです」
ある種の動作は、不快な感覚や苦痛を引き起こすかもしれない。ですが、それは、害が加わっていることを意味するものではないということを患者が理解することは大切です。そして、そうした動きに少しずつ慣れていくことが非常に重要です。というのも、「完全に避けてしまうと、脳の再調整ができず」その動作が安全であると認識できなくなるからです。
▼ 脳からのメッセージを自分が変える
68歳のクロスさんは、2019年に屋外にいたとき、誤って鉄の床に落ちて大けがをしてしまいました。顔と腕の骨や神経の損傷を治すために、10回もの大手術を受けてきました。これからも手術は続きます。
クロスさんは、「自分自身が作り出す悲観的なメッセージ」を減らす方法を学ぶまでは、痛みから解放されることはないだろうと恐れていました。
神経の損傷は、今でも、「四六時中、ハチに刺されているような感じだ」と言うものの、脳からのメッセージを変えることで、事故以来、初めて希望が見えてきました。
「自分が主体になって痛みのレベルをコントロールし、そのレベルを下げられるということを学んでいます」
特に注目すべきは、痛みを恐怖心よりもポジティブな「安全」のメッセージやイメージに置き換えることです。
以前は、ボートに乗ることが好きだった彼は、いつか再開できる日を願いながら、日の出とともに美しいボートに乗って釣りをしている自分の姿を思い浮かべています。
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Pain Reprocessing Therapy (PRT).
動画:英語