アメリカで、慢性的な痛みを薬ではなく、脳を再教育するという方法で治療する研究が始まっています。確立されれば、安全で副作用がなく低コストなため、要注目です。
日経新聞に掲載された記事を抜粋要約しながら、情報を追加します。
▼ 18年間、慢性の腰痛に苦しむ
ダニエルさん(49歳)は、27歳の時、庭で芝刈りをしました。
◎ 写真は、借り物。芝刈り機は電動で、女性でも高齢者でも扱える。
翌朝、ベッドから起きられないほどの腰痛になってしまいました。その後、調子のよい時期が数週間続いたり、刺すような痛みや鈍痛が数日続く断続的な痛みに18年間も悩まされてきました。
治療のため、カイロプラクティック、鍼灸、理学療法、鎮痛剤、果てはヒーリングに何十万円も費やしてきました。
ですが、どれも効果がなく、ついに自分は生涯「厄介な腰や背中」に振り回されなければならないという事実を受け入れるしかなくなりました。
▼ 慢性腰痛患者のための新治療
すべてを変えたのは、娘が出場した地元の水泳大会会場で目にしたチラシでした。
「臨床試験(治験)参加者募集」
対象: 慢性腰痛患者
治療法: 新治療/疼痛(とうつう)再処理療法(PRT)
このプログラムによれば、ダニエルさんの苦しみの原因は、からだの組織の損傷によるものではなく、過去の痛みが引き起こしたる恐怖心が「神経回路の誤作動」をおこしたため。このことを脳にわからせるためは、脳の再教育が必要だと言うのです。
▼ アメリカ:慢性痛の治療薬で5万人死亡
日本の厚労省に当たるアメリカの疾患対策センターは、アメリカ人の約20%は、慢性痛に悩まされていると指摘しています。
オピオイド系鎮痛剤(麻薬系)への依存は、2019年だけでアメリカで5万人近くが死亡するという壊滅的な結果を招き、その後も、死亡者は増加の一方で、国家レベルでの問題に直面し続けています。
このため、研究者は、新薬以外の革新的な治療法を模索するようになりました。
◎ 補足: アメリカだけでなくカナダも慢性的な痛みを抱えている人が多い。
当職場
1位 交通事故 4人
2位:重い商品(10キロから40キロ)を持ち上げる 男性4人、女性にとって重いものを持ち続ける ふたり、
3位:職場内でのケガ3人など
15年以上働いている人の20%以上が慢性的な痛みがあり、治療を受け続けています。カナダの健康保険は、入院費や手術は無料ですが、それ以外は、ほんのわずかしかカバーしない。このため、職場で保険を提供していない場合、処方箋が必要な薬や、カイロプラクティックは、ほぼ全額自己負担になります。
麻薬系の鎮痛剤が多用されるのは、そんな理由もあるからかもしれません。
▼ オピオイド(麻薬)以外の治療法が必要
新薬ではない治療研究は、「爆発的に」増えていると、デューク大学の疼痛管理戦略プログラムの責任者グルール氏は言います。
「薬を使わない療法の選択肢を探しています」
有望な研究分野のひとつは、「もう良くならない」「最悪だ」「人生が台無しだ」という患者自身の誇張し過ぎた考え方が、痛みにおいてどんな役割を演じているのかを探ることです。
医師の中には、患者の身体的な痛みの原因を特定できないと、「気のせいです」と、患者をあしらうようにコメントすることがあります。この否定的な表現と、患者自身の破局的な考え方とは別のものです。
患者が持つ誇張した思考を、医療用語として使用することに対し、それは適切ではないと嫌う研究者がいます。痛みを感じている人に、落ち度があると思わせかねないからです。
▼ 解説です
痛みを誇張する思考とは、みっつの要素から成り立つ。
- 繰り返しや、とらわれ
例:痛みのことばかり考える - 無力感
- 痛みの脅威を過度に評価する
例: 痛みがどんどん強くなっていく、痛い部位が増えていく
そんな思考は、痛みの強さや障害、今後に影響を与える。
以下、記事に戻ります。
▼ 研究者アッシャール氏
「生物学的な損傷がなくても、感覚の処理経路が変化するせいで、からだに痛みを感じることがあります」
「痛みに関わる主なからだの部位は、実は、炎症やケガがある部位ではなくて脳なのです」
▼ 消えたり再発する痛みは、ケガや炎症が原因ではない
疼痛の治験に参加したダニエルさんは、身体の損傷による痛みは、彼が感じていた腰痛のように消えたり再発したりするものではないということを学びました。
彼の腰痛は、治療開始後わずか1か月で完全に消失。先年は、5日間連続でスキーをしたにもかかわらず、痛みを感じることはありませんでした。
▼ まとめ
過去のケガが原因で痛みがある。その痛みは、消えたり再発したりする。でも、炎症していなければ、神経や細胞の損傷による痛みではない。つまり、脳の誤作動ということです。
治ったはずの過去のケガ。でも、慢性的な痛みがある方はいらっしゃいますか?