一週間がすぎた。なんだか、おかしな一週間だった。

母は強かった。今までどうりになるように、努力していた。達也は父の事を許せないと言って、一度もしゃべっていない。

私は、母の真似をして、強くなりたかったので、父とは生活の会話は交わしたが、どうも自然になれない。

時が、少しでも皆の心の傷を緩和させてくれるのを願うばかりだ。


合コンで、出合った浩之は、毎日電話とメールが来て最初は面倒に感じたが、家庭の事情を話したら、その反応が、あまりにもまともで、私の気持ちを理解してくれて、今では、電話もメールも待ち望んでる状態だ。

私は、単純だが、辛いときに支えてもらえて、好意を抱くようになった。

まだ、まともに会って会話もしていないのに・・・。

でも、きっと今回の事で人間不信になるかと思っていたが、浩之の気持ちはなぜか信じられた。

会う約束もした。早く会いたかった。


はるかは、順調に回復しているようだった。雑誌のカバーもはるかに決まった。

恵子が事務所を、突然やめたのだ。

そして、はるかの彼の大槻さんもなぜか仕事を辞めてしまったらしい。

彼ははるかと音信普通らしい。

わざわざ言葉にしなくても、はるかも私も気が付いた。

恵子と、一緒になったのだ・・・。

でも、音信普通で、携帯番号も変えてしまった彼は非常識にもほどがある。さよならの一言も無くして消える男が居る事を知った。

はるかは、仕事に専念すると言っているが、心配だ。


このようななかで、浩之のことをなぜか信じてしまうのは、彼の人柄だけではなく、私が恋をしているからかもしれない。この頃、高木晋のことは覚えていたが、色々なことがあったのと、浩之のこで頭がいっぱいな私は、電話も一度もしていない。


浩之とデートの日が来た。

待ち合わせの時間ぴったりに二人は会った。


「今日の髪型も格好も、かわいね。」

「ありがとう。この一週間、待ちどうしかった。」

「俺も夏子ちゃんに会いたかった。毎日、今日のことばかり考えていたよ。」


私たちはまるで、始めてのデートとは思えないほど、自然に楽しく過ごした。

帰り際に、今度はいつ会えるのかと聞かれ、そんな事が嬉しくて、思わず自分から、キスをしてしまった。

びっくりする彼。私も、自分からキスをするなんて、生まれて初めてで、びっくりした。理性を見失った。


「夏子ちゃんとのはじめてのデート、はじめてのキス、一生忘れないよ。早いかもしれないけど、俺、本気みたいだ。次のデート、楽しみにしているから。」

「私も浩之さんと一緒にいると、時間がたつのも解らないし、自分がしている事もわからないほど、好きになっちゃったみたい。」


生まれて初めて、自分の気持ちをストレートに言えたみたいだ。今まで、付き合った人に夏子は、俺のことが好きか解らないと言われた事があり、自分は表現が下手だとおもっていたが、どうやら、今初恋をしたみたいだ。今までの好きとは違う・・・。


私は色ボケ状態だったかもしれない。はるかのことは心配だが、浩之に夢中であれから一度も会いに行っていない。最低だ。はるかは彼氏が突然消えてしまったのに。

それを考えると、自分が新しい恋を始めてるなんて言えなかった。

でも、明日の午後、夕食を食べる事になっている。



「あのう・・・。神崎総一の娘の神埼夏子と申しますが、父に用があるのですが。」

「少々お待ち下さい。」

「神崎さんは今、外出しているので、良かったら秘書の者を呼びましょうか」

「・・・。お願いします。」


こんなに早く不倫相手に会う事になるとは思っていなかった。

はっきり、言おう。最低の女だって!!


すぐに、秘書はやってきた。


「はじめまして。お父様の秘書をしている田中礼子と申します。」

「はじめまして。父との事、全部知っています。場所を変えましょう。」


彼女は、動揺している。私は、冷静だ。二十代半ばにしか見えない童顔の彼女を見て腹がたちすぎて、逆に冷静になった。この女をどうなじろうかと考えている私の顔は、きっと般若に匹敵するだろう。


近くのカフェに入った。会社の人はこの時間は利用しないみたいだ。


「単刀直入にいいますが、父との不倫、子供が居る事すべて知っています。あなた、何を考えているのですか」

「・・・・。ごめんなさい。・・・。ごめんなさい。」

「謝る位なら、なんでこんな事になったか説明してください。あなたは犯罪者です。」

「・・・・・・。」

「馬鹿みたいに黙り込まないで下さい。あっ、馬鹿ですよね。忘れていました。」


私はこんなに人を罵倒したのは始めてだ。自分でもぞっとする。だが、子供みたいな、この女を目の前にすると、いくらでも汚い、意地悪な言葉が浮かんでくる。


「本当に馬鹿です。私の方から、神崎さんにお付き合いしてほしいと言いました。神崎さんにお断りされていたのですが、諦められなくて・・・・。」

「で、寝て子供ができたんですね」

「・・・・。はい。」

「なんで、生んだんですか。悪いのはあなただけとは思っていません。でも、私たちみんなが不幸になるし、あなたの子は、一生、愛人の子ですよ。勘違いしないでくださいね。あなたは、結局一人で幸せな結婚もできずに、年をとっていくだけです。」

「・・・。解っています。奥様やご家族の事を一番に思っている事も・・・。」

「じゃあ、なんで、なんでですか。どれだけ今、母が辛いかわかりますか」

「ごめんなさい。どうしても神埼さんが好きで、子供もおろせなかったんです。」


彼女は泣き出した。もう、話にならない。でも、女として気持ちは解らなくもないが、人の男には手を出してはいけない。エゴイストだ。そして、辛い道を選ぶマゾヒストだ。


私は、携帯で父に来るように言った。

間もなくして父が、情けない顔をしてやってきた。


「夏子・・・。すまない。」

「すまないと思うなら、一生この人と子供に会わないって誓って。」

「・・・・・。」

「お父さんまで、黙らないで。もう、愛想が尽きた。二人、三人で駆け落ちでもしたら」

「・・・・。彼女と、子供とは、会わない。約束する」


それを聞いて私は彼女が、本当に哀れに見えて、同情し始めた。なんて、父は勝手なんだろう。

もう、この二人、本当に大人なのだろうか。


「何も責任のない三人の子供を不幸にして、最低の二人ですね。お母さんには釣り合わないし、私も達也も、父親を選びたかった。」


二人とも沈黙だ。場が凍りついている。


結局、彼女は会社を辞め、田舎に帰って一生会わない事になった。だが、教育費は、出させるように、私が言った。彼女は要らないといったが、半分血の繋がった兄弟は、不幸になってほしくなかった。

彼女は、父をとても愛している。それは、父以上だった。最後に、がんばってください。と、心から言えた。

お人よしなのかもしれないが、愛した人に、捨てられたのだから・・・。

世の中は、汚いことだらけだ。ただ、人を愛するだけでも、不幸で悲しい結末がある。

人は、一人しか愛せないほど、単純に作られていない。でも、私は不倫だけはしたくない。自分を愛するために。


家に帰って、母にすべて話した。


「夏子・・・・。ごめんね。辛い思いさせちゃって。」

「ううん。わたしも、もう子供じゃないし、一番辛いのは、お母さんよ。」

「・・・。私じゃない。彼女だわ・・。」


母は本当に優しい心を持っている。でも、これで良かったのだ。今までの生活をしていたら、私だって変になってしまうだろう。第一、不倫を知って、一夫多妻制みたいになったら、ここ、日本では、病気になってしまう。


だが、一つだけ知った。母にしろ、彼女にしろ、本当に人を愛している。私は、そこまでの恋愛をした事がない。それが、すぐに訪れるとは思っていなかった。

午前五時には目が覚めた。疲れていたからか、はるかがとなりにいるからか、よく眠れた・・・・。

昨日のことはまるで実感がわかない。

二人とも、まだ寝ているようなので自分の身の回りの事を整理してみた。

まず、両親のこと。はるかが恵子という女に恨まれて、怪我をした事。高木晋が、私に一目惚れという信じられない事。

浩之という少し気になる人ができた事・・・。


そういえば、浩之さんにも彩子にも電話の返事をしていないし、高木晋にも電話をしていない。

自分の事など考えているゆとりなどなかったが、高木晋のことは、思い出すと嬉しい。


五時半ごろに達也を起こして、帰り支度を始めた。


「・・・・。あっ、夏子、おはよう。」

「おはよう。そろそろ帰るね。痛む?」

「うん。痛いけど、鎮痛剤が良く効くから大丈夫。」

「でも、時間をあけないと、胃に負担かかるから、気をつけてね。」

「ありがとう。夏子と一緒に寝れて、よく眠れたよ。」

「私もだよ。ありがとう。」

「こちらこそ。お家の事、何もできなくてごめんね・・・。」

「ううん、これは、私でもどうしたらいいのか分からない事だから、はるかは自分の事だけ考えて。今日は彼、来てくれるのよね?」

「うん。夏子も、自分の事だけ考えて。私は大丈夫だから。」


このような会話をしてはるかの家を、二人して後にした。


家に着いた時には、すでに母がいつもどうりに朝食を作っていて、びっくりした。


「お母さん・・・。」

「お帰り。早かったじゃない。」

「お母さんこそ・・・。」

「朝。一番で帰るって電話で言ったじゃない。」


母は、無理をして明るくしゃべっている・・・。


「夏子、達也、お母さんが至らなかったから、こんな事になってごめんね。でも、私、がんばって、お父さんに惚れなおさせなくっちゃって思ってる。だから、お父さんの事、許してあげて。」


母は何を言っているのか・・・。笑いながら話す母は、まるでおかしくなってしまったようだ。


「お母さん、無理しないでよ。私も達也もお母さんの見方なんだから、三人で暮らしたっていいじゃない!!!」


涙が止まらない。感情的になってしまった。母の惨めな姿は見たくない。達也は、ぐっと、涙をこらえて、震えている。


父が、起きてきた。


「すまない。本当にすまない。だが、お前達三人の事、愛しているんだ。」


父は土下座をしている。


「でも、他にも愛してる奴が二人いるんだろ!」

「・・・・・・・・。」


「こんな話はやめて朝食をとりましょう。」

「お母さん、みんなで話会おう。」

「話す事などないわ。いままで通り、仲良く暮らしましょう。」


母の異様さは父も達也も気がついているみたいだ。

母だけが、どうでも良い話をしながら、朝食をとった。

私は学校を、休む事にした。

達也も休むと言ったが、無理に学校へ行かせ、父も会社に行った・・・。


「お母さん、私たち、同じ女じゃない。無理しないで。」


母は静かに涙を流し、話だした。


「夏子・・・。無理していたの、ばれてたかな?」

「うん・・・。こんな事があって普通でいられる訳ないじゃない。」

「最初は、頭に血がのぼって、実家に帰ったけど、よく考えたの。家庭を守りたいって。お母さんには、夏子、達也、そしてお父さんしかいないの。」

「・・・。でも、お父さんの事許せるの?」

「正直に言えば、許せない。けど、私が妻なんだし、よその女より、ずっと長い間一緒にやってきたんだもの。この家庭は、絶対に壊させない。だから、許すの。」

「でも・・・・。これから、その人に会わないとか約束とかしたの?」

「まだ、話してないけど、会ってもかまわないって思ってる。」

「そんなの、おかしいよ。私だって、達也だって、その人と一生会わないなら、まだ納得はいくけど・・・。」

「だって、そんな事言ったら離婚されちゃうかもしれないじゃない。」

「離婚したっていいじゃない。お母さん年よりずっと若く見えるし綺麗だし、他の人だって・・・。」

「何言ってるの・・・。お母さんはお父さんじゃなくちゃ、イヤなのよ。」


そう言って母は洗濯を始めた。


「お母さん、そんな事私がやるから、休んで・・。」

「夏子、私ね、もっと良い女になるの。家だってもっと綺麗にしたいの。」

「十分、綺麗じゃない。」

「まだ、足りないわ。」

「お母さん・・・。」


このままでは母は精神的な病気になってしまう気がした。


悲しかった。今まで生きてきて一番悲しかった。

私は、母を一人にするのは不安だが、内緒で父の会社に向かう事にした。

何を話すのか、会ってどうするのかなどは考えていない。






私は中野駅に向かった。普段は気丈な方だが、さすがに疲れはてた。

達也の支えにならなくては。大人っぽいがまだ十八歳だ。

それより母とはまだ話をしていない・・・。


中野駅に着いた。まもなくして達也も到着した。なにやら荷物をもっている。


「何の荷物?」

「なっちゃんの着替えだよ。適当にTシャツと部屋にかかっていたスカートだけだけど。」

「ありがとう。こんな時に頼んでもないのに気が利くよ、達也は・・・。」

「まあね。」

「今日お邪魔させてもらう家の子、はるかって言ってすごくいい子だから、安心してね。」

「うん・・・。もう家のこと知ってる?」

「うん。」

「あまり、さらす事もないんじゃないかな・・。」

「そうだよね、でもこんな時は家にお父さんと二人で居たくないんじゃないかって。」

「そりゃあ、そうだよ。出かけようとしてたけど、なっちゃん待ってたっていうのもあるし、遊ぶ気にもなれなくてさ。」

「そうだよね。」

「その子、怪我してるって言ってたけど大丈夫なの?」

「結構ひどいけど・・・。」

「そうか、かわいそうだなぁ。」


などと話しているうちにはるかの家に着いた。達也は繊細で心やさしいと知っていたが、やっぱりやさしいな。って改めて感じた。私は少しブラザーコンプレックス気味だ。生意気だけど可愛い弟だ。


「お邪魔します。達也です、こんな時のお邪魔してすみません。」

「いえいえ、こちらこそ夏子に甘えて・・・。はるかです。」

「なんか・・・、見たことあるような気がする・・。」

「あっ!七瀬ゆうきににている。言われません?」


私とはるかは目を合わせて微笑んだ。


「はるかは、その、ゆうきなんだよ。達也。」

「えぇ、そうなの!なっちゃん、先に言ってよ。」

「ごめんごめん。」


「でも普通知らないよ。みんな。深夜番組とかにちょこっと出た事ある位だし。」

「いや、俺の学校では、みんな可愛いって言ってますよ。」

「そうなの!なんだか嬉しいな。あと達也君、敬語使わないで。」

「それで、いいなら、そうします、、、そうするね。」

「うん。」


三人でお弁当を食べ終えてから、本題を話はじめた。


「なっちゃん、かあさん達、離婚かなぁ。」

「どうだろう・・。まずは話あわなくちゃね。でも、今は距離があってそれがベストだと思う。お父さんは何て?」

「自分がすべて悪いから母さんの意見に従うって。」

「お母さん、どうするのかな・・・。お父さんは私から見て忙しいけどお母さんに愛情はあると思うんだけど・・。」

「俺もそう思っていたよ。親父もそうは言ってる。でも忙しいのだって全部が仕事じゃなくて、女と子供との時間が随分あったんだろ。こんな裏切り行為、許せないよ。」

「たしかに・・・。信じられない。」

「そして、親父は何て言ったと思う?」

「・・・・。わからない。」

「両方、愛してる。だっていいだしたんだ。優柔不断さに、俺、切れて殴っちゃったんだよ。」

「達也・・・。たしかにお父さん最低だけど、暴力はやめよう。でも、そこに私がいたら、びんた位しちゃったかもしれないけど・・・。。」

「そうだよ。でも、殴ってから後味悪かった。もうしないよ。」

「達也、お母さんと話したの?」

「携帯、繋がらないし。まだ・・・。」

「じゃあ、おばあちゃんの家にかけてみよう。」

「そうだね。」


「もしもしおじいちゃん、夏子ですけど、お母さんいますか?」

「なっちゃん、ひさしぶり、いま代わるからね。」


祖父の声は明るかった。お母さんは、話していないみたいだ。


「夏子、さっき連絡したけど、電波なかったわよ。」

「ごめん・・・。今、達也と一緒にいるよ、話は聞いた・・。」

「そう・・・。でも、母さん考えたの。昨日は感情的になりすぎたけど、別れないから安心して。」


と、小さな声で呟いた母の声は悲しみで溢れていた。


「お母さん、明日には帰るって。別れないって・・・。思ったより落ち着いてた。おじいちゃん達も知らないみたい。」

「別れない?」

「うん・・・・。」

「それって俺達のためかな・・・。」


はるかが、初めて会話に参加してきた。


「それも、あると思うけど、お父さんに愛情があるからだとおもうな・・・。ずっと一緒に住んで、支えあってきた人のこと、簡単には嫌いになれないよ。」

「そうかもしれない・・・。」


三人は沈黙した。それぞれ皆暗い気分だ。明日の朝、帰ったら母はいるだろか・・・・・。

憂鬱な月曜日になりそうだ。

でも、こんな時だからこそ、母、達也、はるかの力にならなくては・・・。


私とはるかは同じベッドで眠った。はるかと出会って間もないが、こんなに仲良くなれるとは思わなかった。お互いに支えあっている気がする・・・・・。







部長が話し始めた。


「昨日のパーティに俳優の高木晋君が来ていたのは見かけたかい?」

「はい。大ファンなので、見れて嬉しかったです。」

「単刀直入に言うが、君の事一目惚れしたらしく、私に相談してきたんだ。彼は、他事務所だが、昔うちの事務所の者もスカウトしていて俺が入れようと必死にがんばったが、大手に取れれてしまったんだが、プライベートで、付き合いがあって・・。彼は女に堅いし、噂のない所もおおきなポイントだけに、相当真剣みたいだ。夏子ちゃんは彼氏はいるかい?」

「いません・・・・。なんだか、夢みたいな話です。彼ほどの人が・・・。」

「まず、デートしたいそうだ。照れながら言っていたよ。」

「私もしてみたい!!」

「これが連絡先だから。くれぐれにも絶対に誰にも話さないでほしい。家族にも・・・。晋くん、夏子ちゃん、ゆうき、俺、四人のトップシークレットという事で。もし何かあったら、うちの事務所も大変になるし彼も大変な打撃を受ける。」

「はい、口は堅いので安心して下さい。ミーハーですが、嬉しくて仕方がありません。でも、ばれないようにって、どうやって会うのですか?」

「うーん、むずかしいが、車が案外安全だったりする。晋君も考えるだろう。」


私は本当に嬉しかった。まるでシンデレラになった気分だ。はるかがこんな時なのに、喜んでいる自分は、どうしようもないと思いつつ・・・。


「では、ゆうき、一週間ゆっくりして早く治るといいな。」


と、言って帰っていった。


「さすが、夏子。すごい。大ファンの人に一目惚れされるなんて。私も夏子に一目惚れしたけど、人を引き付ける何かがあるんじゃないかな。今までモテてきたでしょ?」

「そんなことないよ。そんなに、恋愛経験も豊富じゃないし。でも、今回はすごい嬉しい。」


「早速電話してみたら?」

「緊張するな・・・。」

「大丈夫よ。夏子、声まで可愛いんだから。」


私はバックから携帯電話を取り出した。電源がOFFのままだ。そういえばずっとOFFにしていた。

まず、電源をいれ留守番電話を聞いた。五件も入っている。

一件目は、母だ。今日は遅いって言ってたけど連絡ください。

二件目は、昨日出合った浩之さんだ。今度良かったら、食事でも・・・。

三件目は、彩子だ。パーティはどう?・・・・・・・・。

四件目と五件目は弟の達也だ。家が大変な事になっている!至急連絡して・・・・。


家が大変?たしかに、無断外泊はしたことがないがそんなに大変なことになるのは変だ。来月には二十歳なのに・・・。


「はるか、なんか急用みたいだから、弟に先に電話するね。」

「うん・・・。大丈夫?」

「二回も留守電入ってるし・・・、あっ、メールも入ってる。」


<親父に隠し子がいる。母さん実家に帰っちゃったし、やばいよ。至急連絡して。


ええっ、隠し子?!私は、パニックだ。はるかの家に来てからまるでドラマを見ているように実感が無い。

私の今までの平凡というなの壁はガタガタと音をたてて崩れさっていく。

すぐに達也に電話した。


「達也、どういう事?」

「ずっと連絡待ってたんだよ。もう!!」

「説明して。」

「昨日珍しく親父が早く帰ってきて今年はお盆休みはとらないから、家族三人で旅行でもしてくれば?って言ったら、母さんがいきなり切れて、今までずっと我慢してきたけど、十二時前に帰ることは月に一回あれば良い方だしほんとうは、あなた浮気してるでしょ。疑わないようにしてきたけど、五~六年前からずっとずっとおかしかった!って泣き叫んで親父のかばんやら財布やらをあさりだしたら、子供と若い女と三人で写っている写真がでてきたんだ。」

「・・・・・・。」

「そして、荷物まとめて横浜の実家に帰る。って話し合いもしないで、出て行っちゃった。」

「本当の話?」

「当たり前だよ。もう、なっちゃんイライラさせんなよ。」

「ごめん。それで、達也はお父さんと話したの?」

「ああ。不倫相手は二十九歳で、三歳の子供がいて、付き合いは六年前で新入社員だったんだって。今までは、他に浮気した事ないって。当時、親父は三十九歳だから、役職ついて秘書がついたって自慢してただろ?」

「うん・・・。じゃあ、その秘書なんだ・・・・・。」

「もう、全部白状したよ。俺、親父のこと殴っちゃった。だって認知もしているんだぜ?あれは、浮気じゃなくて本気だよ。母さんが可愛そうだし、これから、どうなるのか・・・。」


達也は泣いている。隠しているが、私にはわかる。どうしよう。はるかには、今日泊まるといったが、緊急事態だ。どうしよう。どうしよう。腹違いの兄弟がいることに実感がわかない。


「お母さん、心配だね。どうしようか・・・。」

「今すぐ帰って来て。」

「友達大怪我しちゃって・・・。ちょっとかけなおすね。達也に大変な目にあわせて私は居なくてごめんね。」


「はるか・・・・。私に腹違いの兄弟ができた・・・。」

「電話の内容でなんとなく分かった。早く帰ってあげて。」

「ううん、だって泊まるって約束したじゃない。」

「じゃあ、弟さん、家で良かったら、呼んだら?そういう時は、家に居たくないかもしれないし。」

「はるか、怪我してるのにいいの?」

「うん。今は弟さんがベストだとおもう行動をして・・・。」


私は達也に中野の駅まで来るように言った。


この事が、はるかと達也の出会いになってこれからの出来事を考える余地も無かった。

私の心は大波だ。いや、津波が襲ってきたみたいに荒れている。



帰宅ラッシュのせいか、はるかの家までは少し時間がかかった。

到着した頃には黄昏時になっていた。

何だか、ピュアなはるかと出会ってから、自分の感受性が強くなってきたみたいだ。

見慣れた都内の景色さえ、色鮮やかに見える。


「ここなの。汚くてびっくりでしょ。」

「そんな事ないよ。」


といいつつ、想像していたより古そうだ。


「お邪魔します。」

「何もない部屋だけど、どうぞ。考えてみたら薫、あっ、大槻さん以外初めて来てくれたのが夏子だよ。」

「私には、薫ってよんで大丈夫だよ。」

「そっかぁ、何だか恥ずかしいな。」


そして、はるかは大槻さんのジャケットを愛しそうにハンガーに掛けた。

部屋は外装よりずっときれいだ。いや、失礼な言い方だけど綺麗にしているはるかの乙女心が伝わってくる部屋だ。セミダブルベッドにテレビ・・・。必要最低限のものしか無いが、カーテンは可愛い花柄で、細部にもこだわりが見える。


「はるか、着替えて横になって・・・。」

「うん。顔洗うのも片手で、ほんと厄介だな。でも左じゃなくて良かった。」

「なんで?はるか右利きじゃない。」

「だって、左の薬指は特別じゃない。左手は綺麗でいたいな。」

「そっかぁ。でも、右の手も元に戻るから安心してね。」

「夏子の言葉は、魔法みたい。医者がいうより安心する。」


はるかの携帯が鳴った。彼からみたいだ。


「うん。私なら大丈夫。それより仕事良かったね。」


という会話をして電話を切ったみたいだ。


「彼、なんだって?」

「少年誌のカバーの仕事が回ってきたって興奮していた。」

「えっ?」

「もちろん、病院に来れなかった事とか謝ったり心配してくれてたみたいだけど・・・。」

「いつ会えるの?」

「明日の夜には来てくれるって。」

「そう。でも、こんな時に仕事の話をするなんて・・。」

「私にもチャンスがあるの。確率は四分の一だけど。彼は不幸な事があって落ち込んでいるから、この件は、ゆうきはどうでしょう?って社長に話すって。」

「はるかに決まると良いね。」

「でも手、来月には治るかな?後半月・・・。」

「・・。その頃には痛みもないし手のひらだから、大丈夫じゃない?」

「そうよね!この仕事初めてから約二年になるけどこんな大きなチャンス初めて。嬉しい。」

「うん、私も嬉しい。辛い事の後には良いことがあるんだね。」


話していたらまたはるかの携帯が鳴った。


「部長からだ!」


話終わってはるかは、ベットから起き上がってなにやら、そわそわしている。


「どうしたの?」

「部長、今からお見舞いに来てくれるって。何だか、他に大事な話もあるって・・・。」

「大事な話って?」

「はるかも分からない。でも、極秘って言っていたから気になる。」

「私が居ていいの?」

「パーティに来ていた子もいるっていったら、何だか、興奮していたよ。それは良かったって。夏子をこの機会にスカウトする気かなぁ。」

「まさかぁ。でも居てもいいなら居るね。女の子の部屋に入ったらムラムラされちゃうんじゃないかって心配だし。」

「あはは。夏子は心配性だね。そんな所も大好きだけど。部長は愛妻家だし、明るくておもしろいおじさんだから、安心して。」

「そうか・・・。なら良かった。」

「大分お腹がすごいけどね。」

「あっ、あの人か。感じよかった気がするな。」

「でしょ。」


久しぶりに笑い会った。痛いはずなのに、あまり痛がらない。そういえば、今回一度もはるかは泣いていない。

以前嬉し涙はみたが・・・。はるかは、心底強いと思った。


「あっ、夏子、お金返すね。」

「いらないよ。私もタクシーに乗ったからここまで来れたんだしさ。」

「そんな訳にはいかない。はるかを困らせないで。」

「じゃあ、このお金で、今夜の夕飯の材料買うよ。名案じゃない?」

「夏子ー。はるか料理まったくダメで炊飯器も包丁も無いよ。」

 

照れながら困った顔をしたはるかが可愛い。


「じゃあ、お弁当買ってくるよ。手が治ったら、お料理おしえてあげる。」

「嬉しい!!お言葉にあまえちゃうね。教えて教えて。でもお弁当代はお願いだから、出させて。」

「分かったよ。じゃあ、お料理教える授業料ねっ!」

「了解です。先生。」

「スパルタでいくから覚悟してね。」


このような会話をしているうちに部長がやってきた。


「ゆうき、今回は不幸だったね、痛いかい?」

「鎮痛剤が切れると少し痛いですが、今はちっとも痛くありませんよ。」

「そうか・・・。大槻は病院へ行ったか?」

「いえ、でも連絡はきました。」

「ああ、彼はあのパーティで大きな仕事をとったから、接待で忙しかったんだろうな。一人一人にマネージャーをつけられなくてすまないなぁ。」

「いえ、実力ですから。でもがんばります。」

「こんな時にえらい子だよ。同じ沖縄出身だし、これからも俺は可愛がってやるからな。」

「え、部長可愛がってくれていたのですか?」

「あたりまえじゃないか。鈍いなぁ」

「冗談ですよ。いつもありがとうございます。」

「そして、ここから極秘の話をするぞ・・・。。夏子ちゃんの事だから、夏子ちゃんも真剣に、そして極秘という事を忘れないできいてくれ。」

「はい・・・。」


私の事なんて一体何だろう。鼓動が早くなってきたのをかんじた。

お昼の食事まで、はるかは浅い眠りをしていた。痛さのあまり、時々目を覚ましたり、眠ったりの繰り返しだ。


食事が運ばれてきた。


「はるか、少しは食べてね。」

「うん・・・。」


食欲が無くて当たり前だ。でもヨーグルトは食べてくれたので安心した。

大槻さんは、いつくるのか・・・。早く来て安心するはるかの顔が見たい。


「彼、来ないね・・・。」

「もうすぐきっと来るよ。私電話してこようか?」

「ううん、大丈夫。きっと忙しいから。」

「・・・・。」



「私ね、こんな事言ったら笑われちゃうかもしれないけど、彼と一緒になれるなら事務所も辞めて、この業界も辞めてもいいと思うの。アイドルになってみんなに愛されたいっていう夢があったから上京したし、今までなんとかやってきたけど。男で、夢を諦める女の子なんて、夏子嫌いでしょ?」

「そんな事ないよ。自分の夢はその時々で変化するものだよ。私なんて、夢も無い・・・。昔は、看護士にヘアメイクアップアーティストにピアノの先生に画家とか、いっーぱいあったんだけどね。」

「どうして、今は無いの?」

「結局のところ、決まらなかったし夢への努力をしなかったからだと思う。人の流されて短大に通ってる。この年で私は化石みたいにコチコチでただ、月日だけが流れてる。だから、一緒になりたいっていう人がいて、それが今までの夢とはちがっても私よりはるかに生き生きしてると思う。」

「そうかな・・・。はるかにもきっと夢ができるよ。色々な可能性が沢山あると思う。夢中になるものが出てくるよ。化石だなんて言わないで。若葉なんだよ。」

「若葉かぁ・・・。良い響き!若葉を枯らさないようにするために、次になにか、夢ができたらたっぷり水をあげないとね。ありがとう。」


こんな時にはるかに励まされてしまった。私は夢ができたら本当に叶えるまで努力しようとおもった。世間一般より遅れている若葉のために・・・。


時刻は三時を回った。


「そろそろ、帰る準備するね。」

「うん・・。」

「彼のことは気にしないで。」

「でも・・・・。迎えに来てもらおう。」

「タクシーで大丈夫。でも・・・・。」

「なぁに?」

「お金貸してほしい。ごめんなさい。」

「そんな事、謝らないで、はるかが迷惑じゃなかったら、今日はるかの家泊まっていいかな?」

「もちろん、気を使ってもらってありがとう。でも明日月曜だよ?学校は?」

「明日の朝帰れば大丈夫。」

「本当にありがとう。」


はるかを一人にさせたくなかった。私よりずっと大槻さんを待っているのが、言葉にださなくても痛いほど分かった。


帰り支度や手続き、処方箋などをもらって、タクシーに乗り込んだ。

結局、大槻さんは来なかった。



はるかは今手術室で戦っている。

心配だ。痛いだろうし、恵子のせいだというのが、腹が立つ。

これは、犯罪ではないか。


手術が終わったみたいだ。

主治医が私の元へやって来た。


「局部麻酔で手術しましたが、出血も多かったですし、麻酔が切れてからの処置もあるので、様子見るために入院してください。」

「はい・・・。先生、手術は成功ですか?」

「破片も全部取り除いたし成功です。ただ、知覚が優れている部分ですし皮膚も薄いところなので、麻酔が切れたら痛みはありますね。傷跡は、時間とともに手のシワに混ざって目立つ事は無いでしょう。」

「良かった・・・。」

「五針と二針縫ったのですが、二針の方の傷がとても深いので、しばらくは残ると思いますし、大体三ヶ月は少し、不自由な思いをされると思いますが・・・。」

「そうですか・・・・。」


あんまりにもはるかが可愛そうだ、涙が止まらない・・・。


そして、ベットで眠っているはるかと看護士らと病室へ向かった。

私の簡易ベットも用意されていた。時計の針は二時を指していた。

仮眠する前に、大槻さんに連絡しなくては、、、。


はるかのかばんから携帯を取り出し、自分の携帯と二つを持って病院外へと向かった。

保険証を探したり、携帯の電源をOFFにしたりと、はるかの荷物には手をつけたが、人の携帯の中から、

大槻さんの番号を、探すため、はるかの携帯を見るのはとっても気が引けるが、仕方が無い。


「神崎夏子ですけど・・。今大丈夫ですか?」

「はい、ゆうきの事まかせてすいませんね、どうでしたか?」

「手術して、二箇所縫って今は眠っています。麻酔が切れたときのこともあって、入院します。」

「そうか・・・。運がいつも無い子なんだよ・・・。明日病院に行くのでそれまでよろしくおねがいします。」

「はい。そのつもりです。では、明日・・・。失礼します。」

「失礼します。」


目が覚めたら、大槻さんが来ているといいな、と思った。大槻薫、の後にハートマークが携帯のアドレスに登録されていた。


それから、しばらくして簡易ベットに横になった。恵子という女のことが気になり中々眠りにつけなかったが、いつの間にか眠っていたようだ・・・。


目が覚めたのは、はるかの悲鳴だった。


「いっいたい・・。」

「はるか、二箇所縫ったの、でも手術は大成功だって。」

「夏子・・・・。ずっと居てくれたの・・・?ありがとう。」

「友達、いや、親友だから当たり前じゃない。」

「本当にありがとう。」

「無理してしゃべらないで。」

「うん・・・。でも夏子だけには聞いてほしい事があるの。私、たしかに、恵子にスカートの裾を踏まれて押された。故意的だった・・・。」

「救急者の中でも聞いた・・・。それってひどすぎるよ。恵子ってだあれ?」

「同じ事務所でマネージャーも同じなの。ここだけの話・・・。」


言いたい事がなんとなく分かった。恵子も大槻さんの事が好きなのだ。


「秘密だけど、私大槻さんと付き合っているの。でも、恵子も彼の事好きみたいで、何度か嫌がらせはうけている。」

「そうなの・・・。あっ、大槻さん今日来るって。携帯とか保険証とか見るためにはるかのプライベートなもの見ちゃった。ごめん・・。」

「むしろ、ありがとうだよ。でも、ハートマークもばれちゃったかな。恥ずかしい。」

「私もしたことあるからっ。彼氏なんだしいいじゃない。それより、付き合ってるのはまずくないの?」

「まずいよ。ばれたら、彼は首だしこの関係の仕事できなくなるし、女の子の大体年収の五倍の額を払わせられる。女の子は、五百万と、仕事が、回ってこなかったりする・・・。」

「想像以上にきびしいね・・・。でも、それほど、真剣なんだね。」

「わたしは真剣だけど、彼は仕事人間だから・・・。あと、ばれるまえに事務所に結婚したいとか、申しでるとまた話は変わってくるんだ。ケースバイケースだけど・・・。」


「色々話させちゃってごめんね。」

「いえいえ、それより、ちょと痛すぎてナースコールするね・・・・・。」


それから、鎮痛剤の注射を打ってもらい、ウトウトした様子だった。


朝八時には、回診の先生が来た。


「血圧も正常だし、経過も良いから今日の夕方には家に帰れるでしょう。不安なら、明日でもかまいませんが。」

「大丈夫です。今日帰ります。」

「分かりました。食欲はなくても、昼には点滴抜きますから、食べてくださいね。」

「はい。先生、後には残りますか・・・?」

「しばらくは・・・。でも時間とともにどんどん薄くなりますよ。目立つ事は無いでしょう。」

「よかった・・・。ありがとうございます。」

「後は通院はしばらく通ってください。」

「はい。」


「よかったね、今が一番痛くて辛いと思うから、がんばってね。」

「うん。ありがとう、痛さより、恵子が怖い・・・のが、不安。」

「ちゃんと、事務所の上の人に報告して、対策をしよう。」

「それは、できないの、恵子にはばれてるし、ばらさないから、事務所辞めろ。とか、言われてる。」

「それじゃあ、大槻さんには言って気持ちとか、分かってもらおう。」

「彼は信じてくれるかな・・・。いつも、言ってないよ。」


とても辛い状況だ。マネージャーを好きになったはるかは今までだれにも言えず、苦痛を味わってきたのか・・。どうにか、ならないのかな・・・。


あっという間に一週間たった。昨日は幼馴染のミホが家に泊まりに来て、パーティのことを話したら、羨ましいといわれた。たしかに、一般人の私が行くような所では無い。ミホの好奇心とは逆に不安になってきた。

詳しいパーティに関するメールがはるかから来たが、とてつもない大きな会場だ。軽装でOKとのことだが、はるかもドレスだし、責めてヘアサロンでセットしてから行こう。


ミホと昼過ぎにさよならして、メイクを普段よりしっかりした。昔からメイクは好きでメイクアップアーティストとかにも憧れていた時期もあった。


美奈達と五時には六本木の薬局前で待ち合わせしている。行き着けのサロンは青山で、面倒なので六本木のサロンでヘアセットしてもらう事にした。適当に入ったお店が悪かった、、、。

ホステスさん達がたくさんセットしてもらっていて、私も、どこから見ても、ホステスになってしまった。


たかが、合コンでは気合の入りすぎた子だ。まぁ、もう仕方が無い。パーティにはこれ位が良いかもしれない。


美奈、京香、彩子、ひとみ、そして私、五人が揃った。

学校の仲良しグループ集合だ。京香以外は将来はマダムを目指している。

ひとみは半端じゃない裕福な子だけど気取りが無く、育ちの良さを感じる。京香は卒業後、留学して大学生になる予定だ。短大に入ったものの、調香師になる夢ができ、今は英会話の勉強で忙しそうだ。

学校以外だ会うのは、久しぶりで五人が揃うのは珍しい。さすが、美奈が、気合をいれたコンパだ。


「夏子、今日すっごい綺麗!!やられたよ~。気合はいってるじゃない。」

と、彩子に言われた。

美奈は、

「忘れてた位の合コンなのにどうしちゃったの?」

と、不思議な様子だ。

パーティの事を話すと皆、納得したみたいだ。

芸能関係に興味がある彩子は、コネを作ってきてという。

実は、昔は歌手になりたかったと顔を赤くして話していた事があったのを思い出した。


みな、子供の頃、夢がお嫁さんであってもセレブなんて答える子はいない。


五時~七時少し前までカフェで過ごした。軽食をつまみつつ・・・。

コンパで、お腹が空いて、思わず食に夢中にならないように。

男には絶対に見られたくない涙ぐましい姿だ。

七時が近づくと順番に席を立ち、お手洗いでメイクのお直しが始まる。これもいつもの事。

だが、今日は五人も前もって集まっているから、明らかにカフェの中でも浮いている。


合コンは楽しいとは言えなかった。仕事に疲れ果てている感じがただよっている人もいれば、自慢屋の人もいた。だが、お互い合コンに馴れ合っているせいか、それなりには盛り上がった。一人素敵な人もいて、帰りぎはに番号を聞かれた。


これが浩之との出会いだった・・・。


二次会もあったみたいだけど、お先に失礼してパーティ会場へと向かった。

もう、時計は九時半すぎを指している。はるかに言った時刻より少し遅れてしまう・・・。


会場に着いて、まずはるかを電話で呼び出し、IDパスをして入場した。

セキュリティーの凄さと会場いっぱいの人にびっくりしてしまった。


「はるか、ごめんね、遅くなって・・・。」

「こんなに人が居るんだもの、大丈夫。それより来てくれてありがとう。夏子、凄くきまってるよ。スカウトされちゃうね。」

「そんな事は無いよー。それより、お酒も少し飲んでるのに凄く緊張してる。」

「大丈夫。落ち着いて。はるかは、露出度が一番高い感じがして恥ずかしいよ。」


たしかに皆おしゃれだがロングドレスはあまり目に付かない。おせっかいにも心配してた事が現実となってしまった。パーティの繊細は良く調べるに越したことがないなと思った。


まず、はるかの事務所のお偉いさん達が集まってる所に案内された。

綺麗だとか、お世辞にきまってるがうちの事務所に入らないかと言われたり、社交辞令を交わした。

社交辞令は、合コンで慣れたせいかいつの間にか得意になっていた。


周りを見渡すとテレビや雑誌で見たことがある人が沢山いる。丁度、事務所関係者やプロデューサーなどの知らない顔と半々な感じだ。

ファンの俳優、高木晋を見つけた時は興奮した。


芸能人というのは、普段からテレビなどで見ているせいか、昔から知っている人のような錯覚をおこす。だが、やはり、みなテレビより細く、顔が小さいひとが多い。

テレビは膨張するのは、真実のようだ。


「夏子、ちょっと来て。」


明るいはるかの声がした。


「紹介するね。マネージャーの大槻薫さん」

「始めまして、はるかちゃんとは出合ったばかりだけど、すごく素敵な子で仲良くさせてもらってます。」

「ゆうきから、聞いていたよ。美人でやさしい友達ができた。って。よろしくね、夏子ちゃん。」


そうだ!はるかは、本名だった。それより女の勘で分かった。彼はすごく女慣れしている。でも、仕事柄なのか・・・。

あと、はるかは大槻さんに恋している気がした。はるかは表情豊かで、誰かにばれてないか心配になった。


突然、はるかが、シャンパングラスを持ったまま倒れてしまった。倒れた音が鳴り響いた。

会場中が、しーんとなって視線ははるかに集中された。


「ゆうき、大丈夫?」


私より早く一人の女の子がはるかに声をかけた。


「う、うん・・・。」


「一緒にトイレに行こう。怪我は無い?」

と、慌てて私も声をかけた。


起き上がったはるかを見て、ぎょっとした。グラスのせいで、右手の手のひらが血だらけでガラスもたくさん刺さってる。私は、救急車を呼んだ。


「はるか、もうすぐ救急車くるしがんばってね。」

そんなことしか言えず、しかも痛いのははるかなのに私が動揺して泣いてしまった。

大槻さんは外でまだか、と待っている。

私達はロビーで待っていた。

どくどくと血が流れタオルも随分と赤くなってしまった。


救急車が到着した。大槻さんももちろん同車するかと思ったら、私だけだった。

びっくりした。


「病院を出たら至急電話してね。」と言い残し、上着をはるかにかけた。


上着は、彼のやさしさだが、なぜ同車しないのだろうか・・・。

不思議そうな私を見て気がついたのか、はるかが、

「大槻さんは私だけのマネージャーじゃないし彼まで抜け出せないよ。」

「でも。だって・・・・。」

「夏子が一緒だから、安心だよ。ありがとう。」

「・・・・・。もうしゃべらないで。」


はるかは痛みのあまり、意識がもうろうとしてしまってきたようだ。


小さい声で、私の耳元で、はるかが囁いた。


「恵子にスカート踏まれて押された・・・。」












「・・・。はるか、どうしたの?」

「あんまりにも嬉しくて。この二年間、事務所の人としか、関わってなくて芸名で,ゆうきとしか、しか呼ばれてなかったから・・・。嬉しくて。」

「そうなんだぁ、これかれは私がいるから、はるかってたくさん呼ぶね。」

「すごくうれしいよ。」


本名を呼び捨てで呼んだだけでこんなに嬉しいと思ってくれるなんて、逆に嬉しく感じた。

この頃の私は、はるかがとっても過酷な状況にいる事をしるよしも無かった・・・。それは、もっと後におとずれてきて、自分の悩みとなることとなった・・・。


「夏子、良かったらちょっと、夏のバーゲンでも見に行かない?」

「うん♪私も最近服買ってないから、見たかった所!」


私たちは、ショピングすることになった。


「この白のワンピ、派手かな?」

「全然だよ。むしろ上品で夏子にピッタリ。」


試着を済ませ、購入した。はるかはどんな、服を選ぶのか、楽しみだ。


「これ、地味?」


胸元の谷間が強調されているドレスだった。


「普段着にするの?」

「まさか、今度パーティがあるんだけど、いつも貸衣装で影で笑われているの。」

「パーティだったら目だって好いと思うよ。」

「じゃあ、これにするね。あー、これで来週のパーテイへの悩みがなくなった。」

「良かったね。パーティとか、色々大変そう。」

「うん。仕事に繋がる可能性もあるから、毎回頭を悩ますの。最初は、テレビに出ている人を眺めて楽しかったけど、もっと、ガツガツしてって、マネージャーに言われてる。」

「あたりまえの事だけど、マネージャーとかいてなんだかカッコいいね。」

「専属の人じゃなくて四人に一人だけどね・・・。はるかはまだまだだから。」

「でも、凄いよ。それで、生活してるじゃない。はるかは自立した立派な女性だね。」

「こんなに誉められた事ないよ。ありがとう。今度うちのボロアパートで良かったら遊びにきてね。」

「もちろん。」


気がついたら、夕食の時間だった。


「はるか、時間があったらディナーでもしない?」

「・・・。ディナーはできないけど、ファーストフードなら・・・。」

「ディナーなんて気取ってごめんね、学校の友達たちは、お嬢がおおくて、つい・・・。ファーストフードに行こう。」

「ありがとう。」


とはるかははにかんで、それが屈託のない素直な返事で安心した。


はるかはサラダセット、私はバリューセット。何だか自分が大食漢に思えてきた。


「良く食べていてスタイル良い子って健康的で羨ましいな。」

「わたしは、サラダで済ませるはるかに美意識の高さをかんじて、素敵に思う。」

「また誉めあっゃったね。」


私たちのおしゃべりは止まらずファーストフードで何時間も話ほうけてた高校生の頃を思い出し懐かしく思う。


「夏子、良かったら来週の土曜日も会えないかな?例のパーティなんだけど、一緒にいかない?」

「うわー、ミーハーな私にとっては、すごく嬉しい話。あっ、七時~九時すぎぐらいは予定が入ってるんだった・・・。」

「六本木で、九時からなんだけど、遅れてくる人もたくさんの大勢のパーティだから、夏子が迷惑じゃなかったら・・・。」

「もちろん。私も用事、六本木だから、九時半には行けると思う。」

「ありがとう。今日買ったワンピで来れば清楚で逆に目だって良いとおもう。」

「目立たなくていいけど、これではるかに恥かかせないならそうする。」

「恥なんて、とんでもない!美人な子と一緒で嬉しいよ。」

「もー、また誉めすぎ。でも楽しみにしてるね。」

「うん。詳しい場所はメールしとくね。家に帰らないと分からなくて・・・。」

「了解。」


このような感じで、私たちは楽しい時間をすごし、次の約束もして、わかれた。


でも、パーティの場所に合わせて服選びをしないはるかが少し気になった。長女気質のおせっかいかなと思いつつ・・・。