フィギュアスケートコラム
~氷上の華より 結弦くんの部分を抜粋しました~
3連覇の世界王者を下した羽生結弦。圧倒的演技でソチ五輪へ大きく前進
迫力に満ちた、圧巻の演技だった。
「パリの散歩道」は羽生結弦にとって、昨シーズン二度も歴代最高スコアを更新してきた特別なプログラムである。オリンピックシーズンである今季に、それをキープすることにした判断は正しかった。
「きみのコーチであることを誇りに思う」とオーサーコーチ。
福岡マリンメッセで開催されたGPファイナルで、羽生は完璧な4トウループ、3アクセル、3ルッツ+3トウループを降りた。2シーズン滑り込んできただけあって、スピンもステップも余裕を持ってこなし、振付もよくこなれた滑りだった。
99.84というスコアが出ると、7千人余りの観客から悲鳴にも似た歓声が上がった。
「点数には驚いています。ブライアン(オーサー)に、きみのコーチであることを誇りに思う、と言ってもらいました」羽生は少し照れくさそうに、そう言った。
世界王者、チャンの失速。
このSPの勢いが、羽生結弦を初のGPファイナルタイトルへと導いた。
本大会での最大のライバルは、言うまでもなく3年連続世界王者のカナダのパトリック・チャンだった。今シーズンすでにスケートカナダ、フランス杯と二度も羽生はチャンとあたり、どちらも2位に終わっていた。スケーティングがずば抜けて巧く、4回転を着実に降りるチャンは、誰がどうあがいてもなかなか勝てない絶対王者だった。
そのチャンを、福岡では羽生がいとも簡単に破ってしまった。
SPでパトリック・チャンは、最終滑走だった。最初の4+3をきれいに決めたところはさすがだったが、3アクセルでステップアウトし、ルッツは2回転に。会場内にまだ残っていた羽生のエネルギーに圧倒された、というような演技だった。
「ユズルが出した点数は事前には知らなかった。でも会場の歓声から、すべてジャンプを成功させたのだろうなということは、見当がつきました」
会見場でのチャンは顔色がすぐれなかったが、懸命に笑顔を作ってそう語った。
驚くほどの高評価は「期待点と受け止めている」。
だがフリーでは、さらなる驚きが待っていた。
決勝のあった12月6日は、羽生の18歳最後の日でもあった。
羽生は「ロミオとジュリエット」のフリーで、193.41という高得点を出し、トップを保ったまま優勝を果たした。もっとも内容は、決して彼のベストな演技ではなかった。冒頭の4サルコウで転倒し、最後のスピンはバランスを崩しかけてレベル1となった。
「最初の4サルコウの転倒で、かなり体力的にきつくて、特に後半はあまり滑っていなかった。自分の中では(100点満点中)75点くらい。(あれだけの点が出たことに)正直、戸惑いはあります」羽生は、翌日の囲み会見でそう語った。
日本男子として昨年の高橋大輔に次ぐ2人目の快挙を成し遂げたというのに、手放しで喜ぶ、という様子はなかった。
「これだけの評価をいただいたことを期待点と受け止めて、これからもっともっと頑張りたいです」神妙な顔で、羽生はそう口にした。
ノーミスでも羽生に敗れた世界王者チャン。
一方チャンは、2度の4トウループを含むノーミスの素晴らしい演技だった。だがフリーでも192.61とわずかに羽生に及ばないスコアで、総合2位に終わった。これまでの大会だったら、この日のチャンの演技で楽に逆転優勝が出来たはずだった。
「これまでぼくはSPで引き離して、フリーでは失敗しても逃げ切って勝つというパターンが多かった。だからここではフリーをノーミスで滑ることができただけで、ぼくにとっては勝利です」
そう口にしたチャンだったが、やはり動揺している様子が見てとれた。
過去3年連続で世界王者だった自分がベストな演技をしたのに、転倒のあった選手に勝つことができなかったという事実が、ショックでないわけはない。自分の中で、懸命にその衝撃を和らげ落ち着こうとしているように感じられた。
ソチ五輪で最有力金メダリスト候補とされていたチャンだが、ここに来ていきなりカウンターパンチをくらった気持ちになったに違いない。
「フリーの演技には満足している。自分にとっての勝利でした」と、何度も繰り返した。
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