全日本ルーキー嶋川がRC8Rに乗ったらば。2


の続きです。

さて、嶋川選手に遊んでもらった日記。

「KTM RC8Rってどのくらい速いの?」
「国際ライダーと僕みたいな
普通の初心者ホビーライダーはなにが違うの?」

という疑問をぶつけてみたことが始まり。
彼が今後、鈴鹿8耐やJSB、つまり1000ccクラスや
スリックで走るときの引き出しにもなればと、
バイクを貸しました。

くっちゃくちゃにしても構わない、
とにかく全開で乗って欲しい。


僕らは同じチームなんです。
D;REX RACING TEAM TRIUMPH

一緒になにかしてみたかった。
彼の手伝いができるなら嬉しいし、
彼から学べることはすべて盗みたい。
僕もいつかは全日本に出てみたい。
速さの秘密ってなに?



突然ですが、救急車で運ばれる嶋川直宏選手。

放送で呼ばれました。

嶋川直宏さんの同伴者の方、
至急医務室までお越し下さい。」
この放送で我に返りました。





ピットでタイムを計っていたところ、
サーキット仲間の友達に呼ばれました。
「レイさん、嶋川さんが転んだ」
振り返ると、1ヘア前のS字辺りが砂煙で見えません。

フェンスに駆け寄ると、バイクが倒れて、
嶋川はクラッシュパッドの向こう側で喘いでいました。
強がって大丈夫だと手を降るのが、僕は苦しかったです。

ごめん、怪我をさせた
大事な全日本が始まる前に転ばせた
どうしよう
骨折してたらもてぎに間に合わないかもしれない
ごめん、足りないサスでプッシュさせて
ごめん、それでも攻めてくれて


医務室まで、という放送。
ばかみたいに一心不乱に走って医務室へ。
嶋川の同伴者です、と。
「着替えと貴重品と保険証を持ってきて下さい、
あとこの書類を出来る限り書いて下さい」



「わりい、いてー」
骨折はなさそう。
でも顔が歪んでる。
すごく痛そうでした。

湿布を貼りましょう、今夜腫れるはず、湿布をと、
「いやいりません、大丈夫です、大丈夫ですから」
腫れよ…湿布貼ってくれよ…

友達とマーシャルの方々が
ローダーでバイクを回収してきてくれました。

普段はそれをドナドナとふざけて呼んでいましたが、
自分が世話になると笑えません。
今までごめんなさい。

D;REX豊田さんから「レースはひとりじゃできない」と
日頃から言われます。

わいわいと準備を手伝ってくれる仲間もありがたいですが、
こういうトラブルのときが最も心強いです。



細かい破損部の写真は第一回にアップしました。

全体で見るとたいしたことありませんが、
レースまで残り数日。
修理が間に合わない。

「直そう、直して走ろう」
いやいやいや、痛そうにしながら言うなよ…

「レースに出たい」
やめたほうがいいって、
きっとフレーム歪んでるし、
ちゃんと走るか分からない
怪我したならなおさら変な状態で走らせたくない

「なんでよ、出よう、出る、直す、大丈夫だから」

転ばせた、怪我をさせた責任は僕にあるので、
彼の要求に答えられない状態の
足りないバイクを渡した僕が悪いので、
出来るだけ冷静に考えました。

スペアパーツがないものがある、
純正部品を今からオーストリアから
取り寄せるのは間に合わない、
怪我が心配だから無理して欲しくない。

全然納得してくれません。

「とりあえず洗車しよう、状態を見よう」
聞く耳をもちません。
なんで転倒した直後にも走りたいのか。

週2~3で筑波通いしてどんどんとタイムアップして、
突如ハイサイドした後は、膝擦りができないくらいまで
退化をして、また同じことが出来るようになるまでは、
気持ちが萎えて練習量が減ったこともあり、
僕は半年もの期間を無駄にしました。

今では転ぶ度に悔しくも学ぶことがあり、
余計に燃えるのか、引けない気持ちにはなるのですが、
今回の転倒は大きい。
バイクの破損もそこそこ大きい。



カウルを外して、洗車します。
そんなところに隙間があったのか?
という不思議な所から延々と砂利が出てきます。

水をかけ続けても、泥と砂利がひたすら出てきます。

きれいになるほど見えるダメージ。
これ割れてる、折れてる、削れてる、なくなってる。

D;REXに戻り、豊田さんに報告。
嶋川が出たいと言うのですが、
どう思いますか?

「こういうときは負の連鎖しか浮かばないから、
万全の体制でやり直した方がいいんじゃないの」


嶋川、ダンパーが売り切れて、バネだけで走らせて、
無理をさせて、怪我をさせてごめん
せめてサスの仕様変更をして、
ちゃんと仕事が出来る状態にしてやり直そう


渋々、了解してくれました。




筑波選手権JSBインター、DNS。
後日リザルトを見ると、
インターは他に誰もおらず、
国内ライセンスのJSBは1'00.4で優勝。

嶋川と目指すのは、JSBインターのレコード。
58.031にどれだけ近付けるか。

本人が自身に課したテーマが、
師匠・豊田浩史がT.O.Tで出した
58.209にどれだけ挑めるか。
(オリジナルフレーム、R1エンジン、溝付きタイヤ)

筑波選手権第二戦は全日本もてぎの翌週。
同時進行で準備ができるのか。


転んでも「レースって楽しいなー!」と
笑い合えるのが不思議。
愛車をぶっ壊されても全然OKなのが謎。

好きに理屈なんか関係ないから、
好きを解明する必要はないですよね。


「れいが走るときは引っ張ってやるから」
「何秒までは簡単にいけるから任せろ」
ありがとう、頼りにしてる。

僕のレースは次はどれにしよう。
嶋川が壊して、丁寧に直してくれたRC8R。

六月のツーリストトロフィーは
全日本SUGOとかぶってて難しい。
土曜に自分で走って、SUGOへ移動か。
予選を見逃して、決勝だけか。

九月のツーリストトロフィーかMAX10シリーズか。


とりあえずは、壊れたカウルを何色に塗るか悩もう。
衣替え、お色直し、気分転換。

KTM RC8Rとの再スタート、
もっと楽しもう。

あいつがゼロ秒で走るなら、
僕もいつかはゼロ秒で走れるってことだ。

コンマ何秒の時間を競って、わいわいと騒ぐ遊び。
やっててよかった、これからももっとやろう。

お仕事が充実してるのは最高に幸せですが、
走るためのお仕事だという事を、忘れてた。
この濃密な時間がそれを思い出せてくれた。


そんな気がしなくもない。



つづく。のか。




=REI=