がらがらの都内から、
がらがらの東名を経て、
あっさりと秦野中井ICで降りる。
まずは名ワインディングと名高いヤビツ峠へ。
霧でホワイトアウト。
なにも見えない。
有視界ゼロでのタイトでツイスティーな峠。
ひたすら徐行で抜ける他ない。
ヘルメットのシールドを閉じてると、
水分が張り付いて滴って見えない。
シールドを開けると、
水分がまつげにたまって、
たまにツーッと滴って、つめたいくすぐったい。
マイナスイオンたっぷりな感じは、肌には優しげ。
高速で乾燥した分を取り返した気になる。
お得。
ヤビツ峠の中の小さな滝で一息。
ちょっとした釣りスポットでもあるみたい。
ヤビツ峠を半分越えて、
徐々に霧が晴れる。
木々のスリットから木漏れ日が降りてくる。
雲から差す光線を天使の梯子と呼ぶことに納得。
初めてヤビツ峠は冬の夕方で真っ暗だったんだけど、
八方から迫る森が天然の牙のようでこわかった。
孤立無援で悪魔に狙われてるような感覚。
背筋が凍る思いがした。
シューベルトの「魔王」よろしく。
霧を抜けて、少しずつ道を照らしてくれた明かりが、
神秘的で天使のようだった。
景色がファンタジー映画のワンシーンのようだった。
路面温度が上がってきて、
前日の雨が急速に乾いて、湯気が立っていた。
スモーク効果で臨場感は抜群。
いきなりの霧で、しかも路面は完全にウェットで、ドロドロ。
だけど、この場面で、このツーリングは絶対によくなると、
そういう予感がした。
天気予報の通り刻一刻と雲が流れ去っていく。
ちょっと目を離して、また空を見る。
そのたびに雲が減っていった。
オールクリア。
愛車のトルクを放つときがきた、
反撃の狼煙を上げい。
でも山火事注意だよ?
さあ、いこうか。
綾南のエース仙道くんばりにセリフがキマる。
僕はバスケをしたほうがいいのかもしれない。
大遅刻をしても、さらりと笑顔で
「寝坊です^^」
と言えるほどの男には、まだなれてはいない。
なれる予定がないのが残念です、うんうん。
宮ヶ瀬湖で上着を脱ぐ。
夏のきっかけがきた。
非日常感を味わっての旅、というのもある。
ずっとヒートテックonヒートテックで、
薄着でバイクに乗ることを忘れてた。
半袖で走り出して、腕に風を受けただけで、
たったそれだけのことで幸せを感じた。
大きな幸せってなんだろう。
小さな幸せはたくさん知っている。
看板に弾痕があったことは忘れよう。
・・・。
ケンシロウか、とつっこんでムリクリ置き換えよう。
この道が僕を半袖にさせた。
スタジオで、カメラマンにシャッター音で撃たれる。
ガシャッ、と響くアタック強めでハイが尖ってる金属音。
巧みな乗せ褒め言葉にも盾を弾かれる。
男の僕でもついつい脱いでしまってもおかしくはない。
それよりもスムーズに脱がす、日本晴れ。
だけど、受身ばかりの僕じゃない。
脱がされたんじゃない。
脱いでやったんだ。
そうだ、半袖で夏の入り口を切り取ったんだ。
それをポケットに入れて、自分だけのものにしたんだ。
してやったりでどや顔。
今日この日を走ってよかったと。
でも、アメばかりでもない。
ムチもあった。
いまだに腕だけ重度の日焼けをして、痛い。
両腕、グローブ焼け。
調子に乗ってすいません。
何度、先生にこう謝ったか。
大人になっても性格は変わらない。
宮ヶ瀬やまなみセンターに、茶屋や土産物屋がたくさん並んでいた。
失礼だが、「千と千尋」に出てきた、
どこかあやしげな雰囲気の導入部を思い出す。
他に客はいなかった、それか。
朝早すぎでゴーストタウンだったのか。
それであやしい感じがしただけか。
他にいたのは、こいつ(ネコ科)だけだった。
人懐っこくて、僕のブーツがPUMAと知ってか、
PUMAロゴごっこをやりたがる。
次回「そして道志はアタック」につづく。
=REI=