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念願の、待望の、

BMW S1000RRに試乗してきた!!



今まで頑として乗らなかったこのマシン。

絶対好きになる。

だけど、多分つらくなると分かってた。

好きだけじゃ越えられない壁にぶつかったらどうしようと、

いまひとつ、全力でいけない自分がいた。


これ、きっと、恋。


鉄と樹脂と油分に恋した男の記録。




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目指す道がきっと変わる。


愛車K1200Rと同じ道を辿って、


同じ方向を向いていくのは難しいように思う。



S1000RR、お前はどうしたいのだろうか。


僕に着こなせるかい。


僕はスーパーバイクな乗り手にシフトしていけるのかい。


あるいは、


お前がストリートファイターとして生きられるのかい。



人と機械、


僕らはどこで交わるのだろうか。



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事前情報たっぷり、


先入観ぎっとり、


都合のいい希望的解釈ちゃっかり、



ついに試乗しちゃって、うっかり。



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東京は赤坂を出発して、

外苑前~表参道~新宿~市ヶ谷~飯田橋~御茶ノ水

秋葉原~大手町~日比谷を駆け抜けて、赤坂に帰った。


主に渋滞の30km。


水温は105度。

カウルの隙間からの排熱が直に僕を攻める。

タンクの上には上昇気流、メットの中に熱風が飛び込む。

熱せられたフレームは火鉢、火傷しそうな内太腿。

前傾姿勢で首と手首に徐々に蓄積されていく疲労。

もはや怪我。



バイクを女性に喩えるならば、

「アンタがあたしの都合に合わせるの。」


男子、結構そういうの嫌いじゃないはず。

長く続かないイメージ?

いいじゃない、美は一瞬で燃え尽きるべき。

じゃなきゃ美じゃない。


スーパースポーツは、

ほんの一瞬のスウィートスポットにためだけに乗るのが美学。



不満なんて、スーパースポーツでは定番のところだね。

男と女の話なんて、古代から変わってない。

何万年と同じ喧嘩が繰り返されてきてるはず。

歴史は繰り返すとは、これ確かに。




さて、BMW S1000RR、一つ仮説を立てていた。


それは


”BMW S1000RR=日産GT-R”論。



初めて乗ってみた。


仮説は実証された。



僕にとって、S1000RRとGT-Rは、まさにイコールだった。




僕の初めてのクルマ。

今でも大事に所有するクルマ、それは日産スカイラインGT-R。

90年式の、R32型。



今ではR35型まで進化した。



まず、恐れなくざっくり言ってしまえば、

R32もR35も、完全にGT-Rしている。

GT-Rは変わった、とは思っていない。



GT-Rは他のスポーツカーに比べて、

体格は重量級。


だけど、出力は重量を消す、

とまでは言わないけど、

出力は重量を超えると言いたい。



重いマシンの重厚感が、走りと気持ちを安定させてくれると思っている。

そして大出力が重さゆえの反応の遅さを解決してくれると信じている。



K1200Rも、僕にはイコールGT-R。

250kgの響きは重い。

エンジンがかかると、その響きはまったく消える。


前傾した4気筒とデュオレバー、

これが250kgを信じられないくらいに軽くしてしまう。




僕のマシン選びに大事なのは、スタビリティとトルク。


いつでも離陸できそうな乗り味は、僕には合わない。



僕の乗り物好きのルーツは大型旅客機にある。


巨大タービンが唸りを上げると、鉄が羽になる。


結果、離陸しちゃうのは愛嬌。



そろそろS1000RRの具体的な話をしましょう。


僕にとっては、他のメーカーのスーパーバイクより、


エンジンが、精密。

スタビリティが、磐石。

パワー、むしろトルク。



他のどのライバルもまったく追随できない、鉄壁の安心感を覚えた。


アクセルを捻ると、狂気の加速をする、

と思いきや、意外に速く感じない。

どこまでいっても、BMWらしい安心感が備わっている感覚。

間違いのないように補足しておくと、エンジンはヒステリックに速い。


BMWらしい構造や機構がないにも関わらず、

完全にBMWしてる。



BMW味を抜いて、機械としての完成度やパッケージングを考えると、

”良すぎて”って言い分もありだなと納得できる。



1000ccのサーキット専用車みたいなカテゴリのエンジンは、

ただただよく回って、トルクをもって航空機のような、

それこそターボのような加速感を味わえるものはあまりない。


S1000RRエンジンは、パワーと言うより、トルク。

どこかターボに似た、太さを伴った加速をする。



航空機好き、ターボ好きの僕には直接刺さった。

日本仕様のパワーが落ちた状態でも、十二分に熱い。

フルパワーに戻さなくて乗っていける気がする。


ただし抑えられた状態のバイクは、バイクの本質に反するので、

フルパワーに戻すのは基本。

結局は200馬力弱なんて兵器状態にするのはお約束。



贅沢とは、使い切らないこと。


兵器なのに、盆栽。


これ遊び。



使い切ろうとすべきシーンには自然と巡り合う。


最優先事項は、東京標準装備の渋滞の中でも生きられるか、

日常のスニーカーとしても稼働できるか。



S1000RRはGT-R、それは楽さにある。


140000回転回るエンジンなのに、

6速2000回転で、エンジンがバラけることなく流せる。

3速発進、4速飛ばして5速で完了。

たった二つのギアで都内はクリアできる。



最も驚いたのが、エンジンのマナーの良さ。


よく言う、BMWのシルキーシックス。

実は6気筒に限った話じゃない。

BMWの命はエンジン。

どのエンジンも滑らかで、高回転までよどみなく回る。



10000回転以下はうまみがなくてもいいカテゴリのバイクなのに、

一般的な街乗りで常用する5000回転以下が本当に従順。

アクセルワークに気を遣わない、高回転型ユニットなのに低回転が粘る。



スーパーバイクの都合に合わせる、

快適性から言えば、それは致し方ないところがある。


だけども、S1000RRは、機械側から押し付けられるものがない。

言い過ぎた、熱だけ我慢。


どんな状況からでも、異常に進み、異常に曲がり、異常に止まる。

不安はゼロで。

精神的に疲れないスーパースポーツ、他ではまずない。

スピードを上げれば上げるほどに、安定感を実感して頭が下がる思い。


「はいはい、大丈夫だから、アナタは心配しない」

静かに、どこか永遠的な安心をくれる。

なんかいつもゴメンね、と謝りたくなってしまうくらいに。



どうだろう、思いっきり矛盾したことを言ってる。

一瞬のうまみのスーパースポーツ。

永遠を感じる安心感をくれるスーパースポーツ。



武闘派なライダーはなんでも乗れるでしょう。

僕は軟派ライダーなので、快適性と機動性の両方を求める。


人の都合に合わせた機械はそれなりになってしまう。

人を無視した設計すれば、機械の理想になる、がしかし人が乗れない。



だけど、人と機械の理想が高次元で実現されていて、

なおかつ安心と信頼という最高のスタビリティが備わっていたら。



トラクションコントロールとABSとシフトアシストが、

ライダーの失敗や手抜きを助けてくれる。


それより大事なのは、ミスする前に助けてくれるところ。

それがS1000RRの本質ではないかと。

ライダーの精神状態をなるべく安定させて、とにかく消耗させないこと。


電子制御の類は、

S1000RRにとってはオマケでしかないのかもしれない。

新しい機能だから、ついついハイライトのように感じていたけど、

実際的な緊急時のサポートと、その裏で常時働いているサポート、

その二つ構えの体制が、S1000RRのカラーのように思う。


絶対的に、僕の首と手首は痛かったけど、

体は負けたけど、心は負けなかった。




信号の組み立てを読み違えて、急ブレーキ。

K1200Rマイナス50kgというライトボディなこともあって、

恥ずかしくなるくらいに手前で止まった。

ABS作動せず、まだ奥が余ってるということだね。


バンク中の車線変更は直進状態と変わらない自由さ。

白線やマンホールやわだちをキャンセルする、

ノーマルのサスペンションでここまでやっていいのかという、

素晴らしい足回り。





S1000RRはGT-Rって言い切ってきた。

もっと言い切ってしまおう。


それは速さ。

一番速いこと。


非常識な値段のマシンを省いて言えば、

公道で、素人が趣味で乗る、

それで一番速いマシンが、一番だ。


そういう意味では、S1000RRが一番速い。


男子は速いのが好きって、これも古来から有名だよね。

駿馬を育てて、馬車にエンジン乗せて、

いつの間にか、F1みたいな欲望まで発展して。



僕の技術では出来ないはずの走りが、

S1000RRによって実現されたのを、

公道で実感した。


法定速度内の領域で感じてしまった。


これでワインディングやサーキットに行ったらどうだろう。

格上のライダーの先輩方についていける。

きっと前に出れる。

無理せずに先頭を維持できる。

あまり精神的に疲れることなく。


そんなことしたら体がついていけなくて、

休憩のたびにレッドブルを乱用することになるけどね。

K1200Rでもレッドブル常用。


そもそも、あくまで夢の話ね。

僕は攻めない、まったりライダー。

僕の今の土俵はロングツーリング。



僕のフィールドは公道なので、

最も優れたマシンに乗りたい。


レースだったら、みんな同じ性能のマシンで、よういドンだよね。


だけど、公道はレギュレーションがないので、

一番速くて、一番好きなマシンで、

自分の中でなにかに勝って笑えれば、一番楽しい。


競ったっていいし、競わなくたっていい。


S1000RRに乗る自分を外から見てみる。

すごくいい自分になれていそうに思えた。



モデルとダンサーは鏡と向き合って自分を育てる。


丸の内仲通りを通って、

左右のショーウィンドウに自分を写して駆け抜けた。


慣れない前傾姿勢にこわばったフォームで乗ってた。

だけど楽しそうにしてた。



初めて乗るバイクなのに、すぐに信じていた。

その懐の広さ。

だけど、奥は果てしなく遠く、自由もある。

入り口が広く、奥が深い。


電子制御で、下手を上手くするだけじゃない、

トータルのパッケージが生み出す、懐の広さ、

それがGT-R。



やっぱり男子だから、性能やタイムでも語りたい。

そこでもGT-R説を推す。


初めてのコースで、最速タイムを狙いたいとする。

万人が各自のベストラップを最も簡単に出せるマシン。


R32型のGT-Rはブーストアップで400馬力。

R35型なら、500馬力越えて、600馬力くらい出るかもしれない。

S1000RRが本来のコンディションであれば、193馬力。


馬力ちょっと売りに出しても余る。

半分の100馬力仕様で半額でくださいなんて本末転倒な妄想も出る始末。


パワーだけじゃ速くは前に進むことが出来ない。

どれだけタイヤがきちんと地面と接地してパワーを伝えるか。


GT-Rは分かりやすい可変四駆のおかげあって、

スタビリティが高いと伝えやすいんだけど、

S1000RRはなんでだろう。


それはデュオレバーのおかげだ、と言い切れればどれだけよかったか。

これが一番の本音だけども。


S1000RRのトラクションの良さの説明は、体感してもらうがベスト。


ハンドルから手に、

シートからおしりに、

ステップから足に、

すべてに路面のインフォメーションが届く。


ドイツの職人さんによる親切設計。

BMW F1直系のバイク。

K1200RエンジンのF1クルーの設計なので、同じ血統かもしれない。



S1000RRならいきなりひじを擦れちゃう。

ひざが擦れてなくなっちゃうよ。

なんておふざけもきっと叶ってしまう。



思ったよりもエンジンの回り方は重く感じた、味付けとしては。

最も予想外で、想定の範囲を遥かに越えていたのが、スタビリティ。




兎にも角にも、安心が売りのS1000RR。


ただ、それだけじゃ僕も興奮しない。



エンジンの味が、RB26風味。

R32~34型GT-R搭載の名機、それがRB26。


こうなると、もはやS1000RRに乗らなくてはならない、

宿命的使命感に駆られる。



他メーカーのスーパーバイクで感じられなかったこと。

それがGT-R感。


もっと切れ味が鋭そうだったり、華があったり、情熱的だったり、

鼓動感に溢れていたり、誇り高いものだったりはあった。


だけど、僕にとって一番大事なことは、僕にとって一番だということ。

それがGT-Rという世界観。




さあ、最後の聖戦。


”K1200R vs. S1000RR”


K1200Rを降りてまでS1000RRと生きていきたいか。

決着はまだ着かず。

競合他社はなしの、同門対決。


僕にとってはどちらも、バイク科GT-R属に分類される固有種。


戦いはまだ続く予感。





最後に余談で爆弾投下。


S1000RRのカラーリングで僕が選ぶなら、アシッドグリーンメタリック。

これが2010モデルで廃止、2011モデルではなくなった。


ところが、このアシッドグリーンメタリック。

K1300Rに採用された。


困ります、BMWさん。




=REI=