片腕を欠損した女性は、飼い犬と欠損部を共有している。いまは女性が腕をつけているため、ビロードのようにつやつやとした犬の毛並みはその下半身に、たぷたぷの皮を余らせている。ひとなつっこそうに。ウエディングドレスの裾をひきずるようにして。
私はこう考える。家族にも等しい愛玩動物とその肉体の一部を共有できるなんて、飼い主としては冥利に尽きる技術ではないだろうか、と。女性が腕を外して共有部を犬に戻すと下半身はまた、快活に動き始める。
飼い主のため、飼い犬は共有部を外そうと焦っている。もしかすると女性になにかあったのかも知れない。そうでもなければ、犬が自ら下半身を外し女性の腕に装着しなければならない、そのように焦る理由がみあたらない。汗をかいているのか毛並みはしっとりとチョコレート色の油粘土になり、犬はにゃっ太がみつからなくて焦っているサーカスでのにゃーこの顔になっている。
それが痛々しくて私は、女性の腕と犬の下半身とはまったく形状が異なるのにどうして共有できるのだろうか、と考えることにしたし実際に考えた。犬は焦った表情で、舌をだし、前足をきちんと揃えたまま、後足をもぞつかせ続けた。